Up サバクに土は戻らない 作成: 2023-12-10
更新: 2023-12-10


    サバクとは,不毛の地のことである。
    不毛とは,植物が育たないことである。
    植物が生きられなければ,動物も生きられない。
    サバクは,生き物のいないところである。


    ひとは,サバクは乾いて水が無いから植物が育たない,と思っている。
    実際,サバクに水を引けば植物が育つと思っている。

    サバクに水を引き作付けや植林をするボランティアの活動が,報道される。
    そして報道されるのは,そこまでである。
    植物は育たないからである。

    サバクは,水を引いたら植物が育つ,というところではない。
    サバクに水を引いて植物を育てようとするのは,水栽培で植物を育てようとするのと同じである。
    はじめのうちは育っても,すぐに止まって死んでしまう。
    なぜか?
    育つためには,栄養が要るからである。


    植物を育てるには,土に植えて水をやる。
    土に植えることが要件になるのは,植物は土から栄養を取るからである。
    サバクは,土が無い。
    よって,水を引いても植物は育たない。

    ひとは,サバクに水を引けば植物が育つと思っている。
    それは,「土」を知らないからである。

    土とは何か?
    土は,生物が有機物の生成と分解を循環させている系である。
    植物や土壌生物は,その有機物を栄養にしている。


    農産物の生産は,土の破壊行為である。
    よって農業は,栽培を土の養生 (土づくり) とセットに考える。
    よって農業は,過生産を控える

    しかし農業は,商品経済のもとで,商品生産農業になる。
    商品生産農業は,金を得るために,多く作って多く売ろうとする。
    これは,過生産に進む。
    土づくりを考えないものになる。
    そして,土を知らないものになる。


    土は生態系である。
    そこに済んでいる生き物の数と多様性は,途方も無い。
    例えば,つぎのような文言に出遭う:
     「 普通の畑には1アール (10m × 10m) あたり 49.0 〜 52.5 kg のカビ,14.0 〜17.5 kg の細菌
     「 土壌中のダニは、少ないところで1平方メートルあたり10,000匹、多いところでは100,000匹に
     「 土壌中のセンチュウは,地球上のバイオマスの15%を占めているともいわれる
    それら生き物が絶妙に共棲している系が,土である。
    これが出来上がるには,長い時間がかかっている。

    土とはこういうものであるから,土を無くした地には土が戻って来ない。
    土が戻るとは,無くした生態系が0からつくり直されるということなのである。

    一方ひとは,今を生きることが全てである。
    「後は野となれ山となれ」で生きるのみである。
    こうして,土を壊し,不毛の地をつくる。
    サバクをつくるというわけである。