Up 津波の浸水は想定していない 作成: 2023-11-01
更新: 2023-11-11


      東京都防災会議「首都直下地震等による東京の被害想定 報告書」(2022), p.3-13.
    都心南部直下地震で発生する津波高は、都内の河川及び海岸の堤防を越える高さとはならない想定である。
    大正関東地震及び南海トラフ巨大地震で発生する津波高は、区部で最大約2.6mとなる想定であり、河川敷は浸水するが、住宅地等は浸水しない想定である。


東京都港湾局「東京港海岸保全施設整備計画」(2012), p.5から引用
防潮堤 (江東区東雲2丁目)

      江東区「江東区における津波の影響について」
    令和4年5月に東京都防災会議が公表した「首都直下地震等による東京の被害想定」において、「大正関東地震」及び「南海トラフ巨大地震」における最大値の津波の高さが算出されています。潮位については朔望平均満潮位を採用しており、T.P.基準では T.P.+0.966m に換算されます。
    本区の最大津波高は、「大正関東地震」では、2.22m。「南海トラフ巨大地震」は2.63mと算出されており、河川敷は浸水しますが住宅地等は浸水しない想定です。
    また、首都直下地震(都心南部直下地震)で発生する津波高は河川や海岸の堤防を越える高さとはならない想定です。
    東京湾内湾のうち江東区にかかる防潮堤の高さはT.P.+4.47m〜+6.87mとなっており、想定しているあらゆる津波の高さを上回っています

    ここで「(東京湾) T.P.+0.966m」は,東京都『首都直下地震等による東京の被害想定』(2022) の p.2-49 にある。


      東京都港湾局「東京港海岸保全施設整備計画」(2023), p.12
     令和4年5月の東京都防災会議による被害想定では、大正関東地震及び南海トラフ巨大地震を対象として津波高が算出され、最大津波高は南海トラフ巨大地震によるもので、A.P.+3.76m となった。
     気候変動の影響を考慮した将来の防潮堤の天端高は、高潮や津波による潮位等を比較したうえで設定することを基本とする。
     東京港では現時点で高潮を考慮しA.P.+4.6m〜A.P.+8.0m の高さで防潮堤が整備されており、将来は気候変動の影響を加味しA.P.+5.6m〜A.P.+8.0m の高さとなる。東京港で想定される高潮は、想定される津波を大幅に上回っていることから、防潮堤の天端高は高潮を用いて設定する。

    ここで「南海トラフ巨大地震による最大津波高 A.P.+3.76m」は,『被害想定』の p.2-57 の「江東区 2.63m」を指している。
      実際,A.P. と T.P. の関係は:
    荒川上流河川事務所「A.P.」から引用
      よって,
        T.P.+2.63m = ( A.P.+1.134m ) + 2.63m = A.P.+3.764m


    このように,地震対策を負わされた行政機関は, 「東京都防災会議」に責任溯行が向かうようにする。
    そして「東京都防災会議」は,この場合,地震部会専門委員=地震学者を指す。


    ひとは,「津波は河川や海岸の堤防を越える高さにはならない」を聞いて安心する。
    ひとは,専門家や行政が言ってくることを信じるのである。

    地震・津波は,わからないのである。
    地震学者は,《これまでのパターンがこの先も繰り返される》を用いて,推計する。
    計算は,《これまでのパターンがこの先も繰り返される》から逸脱しないように調節される。
    推計は,予定調和なのである。


    また,「津波より防潮堤の方が高い」の言い回しは,ひとに津波を高潮と同じものに思わせることになる。

    高潮は,海面が上空の強い低気圧 (特に台風) で持ち上がる現象である。
    持ち上がりが保たれるので,上下動の波はできない。
    防潮堤にぶつかる波は,風がつくる波である。

    津波は,海底の地殻が海水を突き上げることが始まりである。
    上昇した海水は,つぎに落下する。
    この上下動が波として伝播する。
    津波の波は,海水の上下動なので,高潮の波とはエネルギーが比べものにならない。
    防潮堤は波の伝播を遮るものになるが,伝播を遮られた波は後続の波とぶつかって (干渉して),高い水面上昇になる。
    こうして,津波は防潮堤を越える。

    『被害想定』が示している「津波の高さ」は,防潮堤で海面が上昇する高さでない。
    しかしひとは,「津波高は河川や海岸の堤防を越える高さとはならない」のことばを専ら受け取って,安心する。

港区「津波ハザードマップ日本語版 (情報面)」から引用