Up 商品経済型自然災害 作成: 2018-07-11
更新: 2018-07-11


    バケツをひっくり返したような水が空から降ってきたのに,給水車の前に長い列ができる。
    生活が,完全にインフラ依存になっているからである。

    完全なインフラ依存を導いたものは,商品経済である。
    商品経済は,ひとが生活手段を「疎外」する経済システムである。
    このシステムが麻痺すると,ひとは即,難民になる。


    生活インフラへの完全依存は,「商品経済の進歩」のうちである。
    この進歩は,日本の歴史でいうと,高々百年以内のものである。

    家庭に電気が入る。
    もちろん一気に成るわけではない。
    そして,入っても,停電があたりまえの時期がしばらく続く。
    つぎに水道が入る。
    これの前は,井戸ポンプでやっていた。
    それから,ガスが入る。
    これは,いまも部分的である。
    即ち,灯油タンク,プロパンは,いまも多く使われている。
    そして,水洗トイレを可能にする下水システムが成る。
    並行して,「オール電化」になっていく。

    生活インフラには,流通インフラもある。
    流通インフラは,戸での「食物の貯蔵」を無用にした。
    これは,高々数十年以内のことである。

    翻って,自然災害による難民化現象は,高々数十年以内のものである。
    便利な生活は,自然災害に対し無力である。


    自然災害は,防災政策・防災産業を生む。
    自然災害は,「被る」ではなく,「防ぐ/避ける」で臨むものになる。
    そこで,被害は,「防災/避災の失敗」ということになり,「人災」ということになる。
    商品経済は,自然災害を人災にするわけである。
    こうして,訴訟産業と正のフィードバック・ループが形成される。

    「命の大事」の意味も,今日は「人災コンプライアンス」と表裏である。
    報道がやたらと喧しいのも,「人災コンプライアンス」と表裏だからである。

    そして自然災害は,商品経済のダメージではなく,活性化である。
    自然災害は,自然の新陳代謝であるばかりでなく,人の生活の新陳代謝である。
    自然災害は,商品経済にとっては「特需」を意味する。


    自然災害は,その規模において,生物にとってただ「被る」ものである。
    ── つぎの構えを以て:
        災難に逢ふ時節には災難に逢ふがよく候。
        死ぬる時節には死ぬがよく候。
        是はこれ災難をのがるる妙法にて候。
                    (良寛)
    商品経済は,テクノロジーを掲げて,自然災害を「防ぐ/避ける」の構えでのぞむものにした。
    幻想であるが,幻想も商品経済のうちである。
    幻想とはわかっていても,信じているふりをつとめねばならない。
    いまはこれが社会の正義であり,社会の員の要件だからである。

    自然災害の意味は,この高々百年以内ですっかり変わったのである。