Up 均衡 作成: 2015-01-09
更新: 2015-01-12


    個が生きることは,他の個と衝突することである。
    よって,個が生きることは,他の個と折り合っていくことである。

    この「折り合い」の系が,生態系である。
    生態系は,個の都合が全体で均衡している相である。

    「折り合い」の様相は,刻々変化する。
    「折り合い」は,動態である。
    生態系は,均衡の逐次更新である。


    個は,生態系に適応する。
    しかしこの「適応」を「個の<生きる>は,生態系を壊さない生き方に落ち着く」と解釈したら,それは間違いである。
    生物の「生きる」に「生態系を壊さない」の含意はない。
    「自分が生きられる隙間 (ニッチ) を求める」は,「生態系を壊さないように生きる──自分の分をわきまえる」ではない。

      これは,『動的平衡2』(福岡伸一, 木楽舎, 2011) の pp.73-80 で展開されている「分際 (ニッチ)」の考えに対する批判である。


    生態系の「均衡」を,生体の「動的定常」と混同してはならない。
    一般に,系を生き物に模す論は,このタイプの混同をしがちである。
    よって,ここで強調しておく。

    「動的定常」は,「形の動的保存」の謂いである。
    生体の「動的定常」のメカニズムは,「新陳代謝」(要素の入れ換え) である。
    要素の入れ換えなので,形が保存される。

    一方,生態系の「均衡」は,「形の保存」ではない。
    生態系の「均衡」は,物理系の「現前は物理的均衡相」の「均衡」と同種である。
    ──物理系の「均衡」は「形の保存」ではない。