Up 大腸 作成: 2018-08-17
更新: 2022-01-28


      戸田忠雄 (1939), pp.175-178
    回盲弁を境として大腸に至ると,菌叢に著しい変化が認められ,多種多数の菌が存在するようになる。

    糞便の重量の約 1/3 は細菌で占められるが,大腸における細菌叢は糞便のそれとほとんど同じであり,成人の場合 27菌属,101菌種以上,合計して1014個 (100兆個) に及ぶ菌が生息する。
    下の表に示すようにそのおもなものは偏性嫌気性菌であり,Bacteroides がもっとも多く,Bifidobacterium, Eubacterium,Peptostreptococcus などがそれに続く。
    かつては腸内に生息する菌の代表のように考えられていた大腸菌 Escherichia coli を含む腸内細菌科の菌は,1g 当たり10以下と全体の1% にも満たない。
    また,大腸菌とともに糞便汚染指標菌として知られる Enterococcus は大腸菌よりさらに少ないレベルにしか存在しない。

    新生児においても生後1日目ですでに腸内菌叢の成立がみられるが,乳児 (最近の研究によると母乳栄養児でも人工栄養児でもほぼ同じとされる) においては Bifidobacterium が圧倒的多数を占めるといわれ,離乳を始めると成人のそれに近くなっていく。
    一方老人では総菌数および Bifidobacterium の減少,Clostridium perfringens の増加などが認められている.


      Montgomery (2015), pp.254−259
    消化管の各部位は、まったく違うことをしている ‥‥
    胃は溶解器、小腸は吸収器、大腸は変換器と呼んだほうがいいかもしれない。 ‥‥‥
     大腸は人間の消化管の終点かもしれないが、人間にはない多糖類分解酵素を持った細菌にとっては、ここが始まりだ。
    私たちの内なる聖所の奥深く、微小な錬金術師たちは大腸を、人間が消化できない複合糖質を発酵させる変成の大釜として使っているのだ。
    体内でも体外でも、発酵は有機物を分解するもう一つの手段だ。
    ただし適切な微生物が必要だ。
    たとえばパクテロイデス・テタイオタオミクロンは、複合糖質をばらばらにする酵素を260種類以上作る。
    対照的に、ヒトのゲノムはほんの少ししかコードしていない。
    私たちは複合糖質を分解する酵素を20ほどしか作れないのだ。
     大腸は、消化できないものを集めて溜めておくしか能のない、つまらないゴミ箱などではまったくない。
    それどころか、このあまり愛されることのない場所には、ヒト腸内微生物相で優位を占める二つの門の発酵細菌──パクテロイデス門とフィルミクテス門──のおかげで、すばらしい化学物質が集まっているのだ。
    その代謝産物は短鎖脂肪酸 (SCFA) と呼ばれる、薬効成分の宝庫だ。
    短鎖脂肪酸は究極のリサイクルだと考えられる──細菌は人間が消化できないものを食べて繁栄し、その廃棄物で今度は人間が成長するのだ。



  • 引用/参考文献
    • 戸田忠雄 (1939) :『戸田新細菌学』, 南山堂, 1939
      • 第34版 : 吉田眞一・柳雄介・吉開泰信[編]『戸田新細菌学』, 南山堂, 2013
  • Montgomery,D.R. (2015) : The hidden half of nature ─ The microbial roots of life and health
      W. W. Norton Company, 2015.
      片岡夏実[訳]『土と内臓──微生物がつくる世界』, 築地書館, 2016.