Up 「P2P通貨」の意味がわかっていない 作成: 2020-10-30
更新: 2020-10-30


      中島真志 (2017), pp.14-20
    ビットコインについては、違法サイトにおける麻薬取引での利用や、最大の取引所の破たんなど、信頼を失わせるようないくつかの事件も発生しました。 また、何の規制もなく自由に取引されていた仮想通貨に対し、政府の規制が各国で導入され、ビットコインの匿名性を利用するための使い方にはブレーキがかかるようになりました。 ビットコインの仕組みにも、発行上限の設定や発掘作業に対する報酬の半減など、いくつかの問題点や将来の不安材料があることも、次第に分かってきました。
     ‥‥ 一部の人が取引の承認作業とそれによる報酬を独占し、また一握りの人が多くのビットコインを保有している構造となっている ‥‥
     ‥‥ 金融の専門家たちの間では、ビットコインに対する期待が低下しているのに対して、逆に評価が高まってきているのが「ブロックチェーン」です。 ブロックチェーンは、取引記録を入れた「ブロック」を時系列に鎖のようにつなげて管理する仕組みであり、これによって、不正な取引や二重使用などを防止できるようになっています。 この技術は、もともとはビットコインの仕組みを支える技術でしたが、現在では、仮想通貨とは切り離して、独立した技術として利用が進められようとしています。
     ‥‥ 国内外では、すでにブロックチェーンを使った多くの実証実験が行われています。 まず金融界では、貿易金融、シンジケート・ローン、債券発行など多方面にわたって実証実験が行われていますが、これらの中でも、特に有望視されているのが国際送金や証券決済の分野です。 ‥‥
     民間銀行が国際送金や証券決済などの分野でさまざまな実証実験を行っているのに加えて、注目すべきは、中央銀行までもがブロックチェーンの利用に向けて積極的な取組みをみせていることです。 つまり、中央銀行では、ブロックチェーンを使って、自らがデジタル通貨 (電子的な通貨) を発行する可能性を模索し始めています。
     ビットコインなどの仮想通貨が「私的なデジタル通貨」であるのに対して、中央銀行が発行しようとしているのは、公的な「中央銀行デジタル通貨」です。 ‥‥
     ‥‥ ブロックチェーンは、これまで銀行や証券会社など、金融の中枢にある機関が担ってきた、いわば「金融のメインストリーム」の部分で活用されようとしています。 このため、これが本格的に導入された場合のインパクトは、仮想通貨の比ではないものと考えられます。
    また、ビットコインは、管理者も発行者も存在しないのに対して、中央銀行というしっかりとした管理者・発行者がデジタル通貨を発行する実験に乗り出しています。
    こうした通貨に人々が信頼感を覚えれば、多くの人が公的なデジタル通貨で日常的な支払いを行うようになるといった日も夢ではないかもしれません。」


    これは,つぎのように言うのと同じである:
     「 インターネットについては、信頼を失わせるようないくつかも事件が発生しました。
    しかし,インターネット通信の「パケット」「プロトコル」といった技術は,本物です。
    この技術は、情報通信・発信の中枢にある機関が担ってきた、いわば「情報通信・発信のメインストリーム」の部分で活用されようとしています。 このため、これが本格的に導入された場合のインパクトは、インターネットの比ではないものと考えられます。
    また、インターネットは管理者が存在しないのに対して、国というしっかりとした管理者が情報ネットワークの実験に乗り出しています。
    これに人々が信頼感を覚えれば、多くの人が公的なネットワークで情報通信を行うようになるといった日も夢ではないかもしれません。」

    この物言いがナンセンスなのは,ひとがインターネットを使うのは,「情報通信・発信のメインストリーム」でありたい組織・機関や国という「しっかりとした管理者」に支配されない,自由な情報ネットワークだからである。
    インターネットを使うとき,ひとは「メインストリーム」や「国というしっかりとした管理者」を求めておらず,それどころか拒否しているのである。

    P2P通貨も,これと同じである。
    P2P通貨を使うとき,ひとは「メインストリーム」や「国というしっかりとした管理者」を求めておらず,それどころか拒否しているのである。

    「中銀デジタル通貨」は,とんだ思い違いである。
    「メインストリーム」や「国というしっかりとした管理者」に自惚れる者たちの,思い上がりである。


    現前の「仮想通貨」が全然ダメなものでも,中銀デジタル通貨がこれに取って替われるわけではない。
    中銀デジタル通貨は,ただのナンセンスであり,実現すれば無用の長物である。



  • 参考文献
    • 中島真志 (2017) :『After Bitcoin』, 新潮社, 2017.