Up 「中銀デジタル通貨」は,無用の長物 作成: 2020-10-29
更新: 2020-11-11


    「中銀デジタル通貨」は,現金 (中央銀行券・金属硬貨) をデジタル化しようとするものである。

    中銀デジタル通貨は,無用の長物にしかならない。
    即ち,これを使うメリットは無く,したがって使おうとする者はいない。
    しかしこれが,いま国家プロジェクトになってしまった。
    構想の段階で中銀デジタル通貨のナンセンスが気づかれ,プロジェクトがぽしゃればよいのだが,まかりまちがって実現・実施 (強行) にまで行ってしまえば,いろいろと厄介な事態になる。


    中銀デジタル通貨が無用の長物にしかならないとは,どういうことか。

    先ず,国民にとって決済のデジタル化は,銀行口座の振替方式が最良なのである。
    そして口座振替方式を使い勝手よくしようとしたときの極みは,国民番号制をベースにした「中銀国民口座」ということになるのであって,「中銀デジタル通貨」ではない。

    デジタル通貨としていま存在しているものは,「仮想通貨」である。
    これは,「国を中抜きし,国々を自由に横断」を意義とするところの P2P通貨である。
    これを使用する者は,国際送金を普通のことにしている者である。
    普通生活者では,外人出稼ぎ労働者がいちばんの使用者になる。

    ところが,「中銀デジタル通貨」論者は,つぎのように唱える者である:
     「仮想通貨は,犯罪を呼び込み,ダーティマネーになる」
     「中銀デジタル通貨は,クリーンで信用できるデジタル通貨の実現である」

    この者は,デジタル通貨が中銀デジタル通貨一本になったときの国際送金の方式を,提示せねばならない。
    そして,これまでの銀行経由の国際送金方式をそのままなぞった──したがって,面倒で気の利かない──方式を提示してくる:
      中島真志 (2017), p.238
    「リップルを使った国際送金の例 (送金準備段階)」

    「リップルを使った国際送金の例 (資金移動段階)」

    外人出稼ぎ労働者が,P2P通貨送金が可能になっているとき,これを捨てて上の方式に乗り換えるなどということは,あり得ない。
    あるとしたら,P2P通貨による海外送金を禁じられた場合である。

    しかも,上の国際送金方式の論には,つぎが付いている:
      中島真志 (2017), p.236
    リップルのネットワーク上では、「XRP」という独自の仮想通貨を使うことができます。 XRPは、リップルでは「デジタル資産」(デジタル・アセット) とも呼ばれています。 「リップル」という仮想通貨名でも通用しており、仮想通貨の時価総額リストでは、ピットコインとイーサリアムに次ぐ第3位となっています。

    これは
      「仮想通貨を使いたければ,リップルのXRP をどうぞ」
    と言っているようなものである。
    中銀デジタル通貨プロジェクトは,リップルが陰で糸を引いているのか?」と下衆に勘ぐられてもしようがないことを,言っているわけである。


  • 参考文献
    • 中島真志 (2017) :『After Bitcoin』, 新潮社, 2017.