Up  幻想「デジタル人民元の脅威」: 要旨 作成: 2020-11-25
更新: 2020-11-25


    「デジタル円」の思いは,「バスに乗り遅れるな」「<後塵を拝する>になるのはまずい」である。
    そして,つぎの思いがある:
      「 デジタル人民元は,脅威だ

    「デジタル人民元」は,どうして脅威なのか。
    つぎのように思うからである:
      「 ドルがデファクト世界通貨になっているふうに,デジタル人民元が世界通貨になってしまうのではないか

    人民元が世界通貨になることは,どうして困るのか。
    つぎのように思うからである:
      「 人民元が世界通貨になったら,ひとは人民元の信用が落ち価値が下落することを嫌う。 そこで,なにかにつけて中国に味方するようになる。」

    さて,デジタル人民元は,世界通貨になる可能性があるのか?
    それ以前に,そもそも1つのデジタル通貨が世界通貨になるとは何がどうなることなのか。


    デジタル通貨の中身は,全トランザクション (取引) の台帳 (データファイル) である。
    デジタル通貨を所持するとは,この台帳を分かち持つということである。

    「デジタル通貨を所持」には,この<実際所持=台帳共有>とは別に,<見掛上所持>がある。
    一般者の「デジタル通貨を所持」は,<見掛上所持>になる。
    これは,いまの「電子マネー」と同じである。
    即ち,デジタル通貨の実際所持者であるデジタル通貨サービス事業者のところに,預金口座を開く。
    事業者は「この口座は預金額いくら」を記す。
    その「いくら」の文字列が,預金者のものである。
    預金者は,デジタル通貨を持つのではなく,デジタル通貨を持っている格好になるのである。
    そして,一般者のデジタル通貨決済は見掛けであって,実際は口座決済である。

    「デジタル通貨を所持」の意味が<実際所持=台帳共有>に限られるとしたら,このデジタル通貨は世界通貨にはなれない。
    なぜなら,台帳はとんでもない速度でサイズを増すものになるからである。
    翻って,デジタル通貨が世界通貨になるためには,デジタル通貨サービス事業者が十分な数だけ現れて,トランザクションの数を劇的に少なくすることが必要条件になる。


    この必要条件は,十分条件にもなるか?
    即ち,デジタル通貨は,デジタル通貨サービス事業が設けられることで,世界通貨になれるか?

    一般者が利用する「電子マネー」(=口座決済) は,通貨がデジタル通貨である必要がない。
    「デジタル通貨」で効いてくるのは,つぎの一点である:
      《デジタル通貨サービス事業者は,グローバル企業》
    実際,外貨両替サービス事業がグローバル企業になれば,デジタル通貨は使う理由のないものになる。
    ひとは,この外貨両替サービス事業者のところに口座を持てばよいわけである。
    グローバル決済のネックは,従来型通貨ではなく,国別縦割りの従来型銀行なのである。

      「デジタル通貨」はナンセンスである。
      「デジタル通貨」をソルーションだと思っている問題は,「銀行の旧態」である。
      この問題のソルーションは,「銀行の構造改革」である。


    そして「デジタル人民元」だが,ひとは「世界通貨デジタル人民元」を信用するだろうか?
    即ち,トランザクション台帳を更新するコンピュータは中国政府の運営になるわけだが,ひとはこの運営を信用するだろうか?

    そして,そもそも中国政府は「世界通貨デジタル人民元」の運営を負えるか?
    あるいは,「世界通貨デジタル人民元」がどんなものになるかがわかってきたとき,これを負おうとするか?
    世界通貨になったデジタル通貨の運営は,事故が恐い。
    事故は起こせない。
    しかし,事故を起こさないということは,絶対にできないのである。