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読売新聞, 2020-12-28
県内合併 政府後押し
進まぬ再編 コロナで変化
衝撃的な内容だった。
金融庁の有識者会議は2018年4月、地方における金融機関の課題についてまとめた報告書を発表した。
そこには、「23県は、地方銀行が一つになっても不採算」との試算結果が明記されていた。
複数行による競争が成り立つのは、宮城、千葉、埼玉、神奈川、静岡、愛知、大阪、広島、福岡、鹿児島の10府県(東京都は試算の対象外)だけ。
青森や秋田、福井、島根、長崎など高齢化の進む地域は、たとえ1行に集約されたとしても、生き残ることは難しいというのだ。
少子高齢化の進展や、超低金利の長期化で、地銀の経営環境は明らかに悪化している。
報告書は、地銀を取り巻く環境について「人口減少に店舗削減が追いつかず、出店が過剰と考えられる地域もある」と冷静に分析した。
■ 前のめり
報告書の公表から2年半。
今年9月に発足した菅内閣は、地銀の再編に前のめりだ。
11月11日。
麻生財務相と金融庁の氷見野良三長官らが菅首相と面会した。
経営統合を決めた地銀などに対し、統合の初期費用を補助する制度を設ける案を示すと、菅首相は「地銀の経営環境の整備策として進めてください」と応じたという。
政府は、1件あたり約100億円とされる初期費用の3分の1程度を補助する制度を新設する。
11月27日には、地域の貸し出しシェア(占有率)が高くなっても、同一県内での地銀再編を認める独占禁止法の特例法が施行。
同じ県を拠点とする銀行同士が再編しやすくした。
日本銀行も歩調を合わせる。
再編や経費削減などに取り組む地銀が、日銀に預けているお金に対して払う利子を、年 0.1%上乗せすることを決めた。
政府・日銀はなぜ、地銀再編を後押しするのか。
菅首相は24日の講演で「地方に元気がなければ、日本全体の活力がない」との持論を展開したうえで、地銀にこう注文を付けた。
「地域に住んでいる人たちをしっかり応援してもらいたい。二つ(の地銀) が一つになって経営基盤が強
化されるのであれば、それはそれでいい」
■ 慎重姿勢
地銀再編の必要性は、以前から繰り返し指摘されてきたが、地銀側の動きは鈍い。
比較的規模が大きい第一地銀の数は63〜64行のまま、ほぼ横ばいで推移している。
菅政権の誕生後も、再編に慎重な考えを示すトップが多い。
山形銀行の長谷川吉茂頭取は11月の記者会見で「合併の必要性はなく、単独でいける」と語った。
鳥取銀行の平井耕司頭取も「(地銀の数が)多いという感触はない」と述べた。
他行と統合すれば頭取や役員などの絶対数が減る。
給与水準をそろえる必要もあることが要因とみられる。
■ 「救済型」予測
ただ、新型コロナウイルスの感染拡大で、地銀トップの考え方に変化の兆しも出ている。
宿泊や飲食など、コロナの影響を受けやすい業種への融資が多いためだ。
岡三証券の試算によると、地銀による融資の20%超を占める。
「勝ち組」とされる静岡銀行(静岡市) と山梨中央銀行(甲府市) は10月、包括的な業務提携を発表。
5年間で100億円の提携効果を見込む。
群馬銀行(前橋市)は12月11日、事務やシステムなどの負担を分かち合う「TSUBASA(ツパサ)アライアンス」に加わった。
千葉銀行や中国銀行(岡山市) が中心のグループで、群馬銀行で11行目となる。
人口が少なく、少子高齢化が進む福井では、福井銀行が福邦銀行を子会社化するという形で、県内勢同士の再編が成就しそうだ。
地銀経営に詳しく、冒頭の報告書の作成にも関わった多胡秀人氏は、地銀の将
来をこう予測する。
「地銀同士の業務提携が進む一方、今後数年で(経営に余力のある地銀が、余力のない地銀を吸収る) 救済型の再編も進む可能性がある」
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