Up 中央銀行通貨 : 要旨 作成: 2020-12-23
更新: 2020-12-23


    中央銀行預金者のうちに,自分の預金額を任意に増やせる者が一人,かつ一人のみ,存在している。
    政府である。

    政府がこれまで任意に増やしてきた預金総額は,「国の債務」と呼ばれてきた。
    この表現は,間違いである。
    「債務」と言うときは,債権者が存在することになる。
    しかし,政府が自分の預金額を任意に増やすにおいては,債権者は存在していない。

    政府は「自分の預金額を増やす」を, 「政府が国債を発行し,これを中央銀行が引き受ける──中央銀行が債権者」と表現する。
    これは,体裁に過ぎない。
    中央銀行は,政府のダミーだからである。


    政府が自分の預金額を増やすのは,収入 (国民の口座から政府の口座に入ってくる額) よりも,支出 (政府の口座から国民の口座に出ていく額) の方が,大きいためである。
    国は「民主主義」をルールとするとき,支出が収入を必ず上回るようになる。
    なぜなら,民主主義の政治は国民の求めに応ずることであり,そして国民は支出が小さいことを許さないからである。

    中央銀行通貨の存在理由──中央銀行通貨が民営通貨に換わられることがない理由──は,ここにある。
    民営通貨が通貨のすべてであるとき,政府は支出分の通貨を,収入として得なければならない。
    そしてこれは,税収の分しか支出できないということである。

    「税収の分だけ支出」は無理なことである。
    これを言うことは,荒唐無稽を言うことである。
    日本の財政が,このことを示す最適の例である:
平成30年度当初予算

    税収にあたる「租税及印紙収入 63.0兆円」に対し,「社会保障関係費 89.9兆円」。
    「地方交付税交付金等 19.1兆円」の中身も,今日では手当給付が大きな割合を占める。

    しかも 2020年度は,「新型コロナ対策」として3度の補正予算が立てられ,この中での国債──「国債」+「財政投融資」──発行合計が 136.3 兆円。
    これに対し,税収は,当初見込みより8兆円下振れて「57兆4480億円」。


    EU は,加盟国が収支バランスを強いられることになった。
    日本のような収支バランスを無視した手当支給ができない。
    そしてこれは国民に金が回らないということなので,不況になる。
    こうして──ドイツを除いてということになるのだが──どの国も国民の不満が高まることになる。
    EU 脱退を唱える党の躍進,ということになるわけである。
    これが,現前の「EU危機」である。

    これに対し,「働き者の国ドイツ vs 怠け者の国ギリシャ」みたいなことを言う者がいるが,それなら日本はどうなんだとなる。
    日本が示すことは, 「国の財政は,収支バランスを無視してこそ成り立つ」である。

    「天文学的な数字の債務」において日本は特別,と思ってはならない。
    どの国も,じきに日本に追いつく。
    債務膨張のダイナミクスは,「渦巻き」である。
    ある一線を越えると渦成長に向かう正のフィードバックが働き,忽ちのうちに<脱けられない渦>になるのである。