Up ミスリーディング用語「電子マネー」 作成: 2020-11-06
更新: 2020-11-11


    「電子マネー」のことばは,ミスリーディングである。
    ひとは「電子マネー」を, 「紙幣・金属硬貨をデジタルファイルに替えたもの」の意味に受け取ってしまう。
    しかし,デジタルファイル形態の現金は,あり得ない。
    この現金は,ファイルコピーの手法で増やす (偽造する) ことができるからである。


    実際,「電子決済」は,「電子マネー」の話ではない。
    「口座振替決済の電子化」の話である。

    いわゆる「キャッシュカード」は,銀行口座振替決済をするものであり,そこには「現金」はない。

    プリペイドカードはどうか──そこに「現金」はあるか?
    つぎのようになっていれば,そこに「現金」があると言える:
      プリペイドカード間の通信で,《一方のプリペイドカードの支払可能金額を減じ,他方のプリペイドカードの支払可能金額を同じ額だけ増やす》ができる。
    しかし,これができるプリペイドカードをつくるわけにはいかない。
    このようなプリペイドカードをつくることは,やはり現金偽造をできるようにすることだからである。


    「仮想通貨」と呼ばれている通貨も,「デジタルファイル形態の現金」ではない。
    例えば「ビットコイン」は,つぎのシステムのことである:
    • 決済は,通貨ユーザ総てに対する「アドレスAからアドレスBにいくら送金した」のアナウンスであり,このアナウンスが受理されることである。
    • 全アドレスの全決済の履歴を,ユーザ総てに持たせる (各ユーザのインターネット端末の中に履歴帳を置く)。
      「履歴帳」は,「ブロック・チェーン」の方法でつくる。
      「支払いアナウンスの受理」は,「マイニング」をこれの方法とする。
    • 決済履歴帳から,各アドレスについて「いまいくらある」が算出できる。
    • アドレスは,ユーザがつくったものである。
      各ユーザは,つぎのことができるアプリ (「ウォレット」) を,自分の端末にインストールしている:
      • 自分がつくったアドレス (複数可) それぞれの「いまいくらある」を見る。
      • 自分のアドレスから他のユーザのアドレスに送金する。
        ──この「送金」の意味は,「全ユーザに<送金した>をブロードキャストする」。
      ただし,これをするために,アドレス所有者であることの証明をしなければならない。
      ウォレットには,本人認証のキーが含まれている。
    • アドレスと本人認証キーは,「公開鍵・秘密鍵」の方法で実現されている。
      この意味から,「仮想通貨」は「暗号通貨」とも呼ばれる。
    • ユーザが自分の本人認証キーを失うことは,対応するアドレスの「いまいくらある」が永久に使えなくなることである。

    見ての通り,「貨幣」に直接対応するものは,存在していない。


    ちなみに,"virtual currency" の "virtual" に対する「仮想」の訳は,誤訳である。
    virtual currency は,通貨に他ならないからである。
    実際,virtual currency は,ひとがこれまでもっていた「貨幣」のイメージを覆すことで,反照的に貨幣の本質を表すのである。── "virtual" (「実質的」) という所以である。

    本テクストは,virtual currency の訳語としては「バーチャル通貨」を用いることにし,原理論では「P2P通貨」の語を専ら用いるものとする。


    ここで読者には,つぎの疑問が浮かんだかも知れない:
      中銀通貨の現金の「デジタル化」は,これの意味を「中銀通貨の P2P通貨版をつくり,紙幣・金属硬貨をこれに替える」にすればよいのでは?
    実際,伝えられている主要国の「中銀デジタル通貨」プロジェクト (日本だと「デジタル円」) は,これを構想しているわけである。