21世紀の大学像と今後の改革方策について −競争的環境の中で個性が輝く大学−
(大学審議会答申, 1998-10-26)
第2章 大学の個性化を目指す改革方策
1 課題探求能力の育成―教育研究の質の向上―
(1) 学部教育の再構築
2) 教育方法等の改善 ― 責任ある授業運営と厳格な成績評価の実施―
大学の社会的責任として,
学生の卒業時における質の確保
を図るため,教員は学生に対してあらかじめ各授業における学習目標や目標達成のための授業の方法及び計画とともに,成績評価基準を明示した上で,厳格な成績評価を実施すべきである。なお,厳格な成績評価の実施の結果,留年者による収容定員超過が生ずる可能性があるが,こうした定員超過については大学の設置認可や私学助成の際に弾力的に取り扱うことが適当である。
(ア)卒業時における質の確保
高等教育の大衆化と学生の多様化が一層進展する中で,各大学はそれぞれの個性・特色を発揮しつつ,学部段階における教育機能の充実強化を通じた
卒業生の質の確保
を図ることが必要である。
従来,大学卒業生の質は,大学において何を学んだかということよりも,どこの大学を卒業したか,言い換えればどの大学に入学したかによって判断されているという批判がある。大学は公共的な機関として,社会に貢献する人材の養成に当たるという役割を担っており,学生に高い付加価値を身に付けさせた上で卒業生として送り出すことは大学の社会的責任であるということを十分認識する必要がある。
(イ)成績評価基準の明示等
学生の卒業時における質の確保を図るため,教員は学生に対してあらかじめ各授業における学習目標や目標達成のための授業の方法及び計画とともに,成績評価基準をシラバスなどに明示した上で,厳格な成績評価を実施すべきである。成績評価基準は各授業科目を担当する教員が授業の目的等に沿って適切に定めるべきものであり,学期末の試験のみでなく学生の授業への出席状況,宿題への対応状況,レポート等の提出状況等,日常の学生の授業への取組と成果を考慮して多元的な基準を設定することが望ましい。
学生の学習効果を高めるためには,1学期の中で少数の授業科目を集中的に履修し学期ごとに完結させる制度であるいわゆるセメスター制等の導入を促進し,学期の区分ごとに授業科目を完結させて成績評価を行い次の学期の学習につないでいくことが重要である。
(ウ)厳格な成績評価
厳格な成績評価については,例えばGPAと呼ばれる制度を活用した取組を行っている大学(注*1)もある。
各大学においては,このような例も参考としつつ,各大学の状況に応じた厳格な成績評価の仕組みを整備していくことが必要である。なお,厳格な成績評価の実施により
最低限の質の確保
を行うと同時に,優秀な成績を修めた学生には表彰を行うなど,学生の学習意欲を刺激するような仕組みを導入することも重要である。
(エ)留年者の定員上の取扱いにおける配慮
大学が責任ある授業運営により学生に対する学習指導の充実等に一層努めた上でも,学生において主体的な学習への取組が不十分な場合には,厳格な成績評価を実施し
安易な進級や卒業を抑制
することにより学問分野によっては留年者が増加することも予想される。大学において教育責任を果たすことが大学の設置認可や私学助成の上で不利にならないよう,留年者の定員上の取扱いについては弾力的に取り扱うことが適当である。具体的には,大学の設置認可における定員超過率の算定については,収容定員に対する在学者の割合ではなく入学定員に対する入学者の割合で算定すること,私学助成に関しては,定員超過率に基づく経常費補助金の傾斜配分について,修業年限を超えて在学している者がいる場合に一定の条件下で在学生数から当該留年者を減ずることができるようにする方向で検討することが適当である。