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創作ツールとしてのコンピュータ
例えば,数学は一つの創作された「現実」であり,数学学習は「数学」という「現実」の探究です。そして,コンピュータはこの「現実」の表現をつくる道具になります。
このときの「道具」の意味は,ふつう思い浮かべる「道具」の意味とは違っています。「世界(虚構/記号体系)の創作/創出」が,この場合のコンピュータの道具性です。そしてコンピュータにもっとも特徴的な(つまり他の道具から差異化される)道具的意義はこれです。
「道具」というと,普通,「身体の拡張」のように意義づけられるものを思い浮かべます。身体の拡張として,これまで触れなかったものが触れるようになり,見えなかったものが見えるようになる,そのような道具です。
もちろん,コンピュータは同時にこのような「道具」です。
「世界の創作/創出」という言い方は決して誇張ではありません。コンピュータを用いて作り出された虚構/記号体系の或るものは,規模や複雑さが作者の手に負えなくなるという形で,作者の手から離れます。このレベルの世界は,もはや予定調和の世界とは言えません。《そこに何があるかを探究する》というスタンスが意味をもつようになります。それは,新しい「現実」です。
公理主義的に提示された理論が,実際上,もはや予定調和などではなく改めて探究の対象になる──理論がそのような相で現前する──のと,同じことです。