Up | 免許更新講習 | 作成: 2008-02-04 更新: 2008-02-04 |
「教育職員免許法及び教育公務員特例法の一部を改正する法律」(2007-06-20) により,教員免許に有効期間10年が設けられ,免許更新では「免許更新講習」が課せられることとなった (施行日:2009(平成21)-04-01)。 そして,教員養成系大学・学部が「免許更新講習」を行う主たる場になる (同 第九条の三)。 「免許更新講習」は,現行の「10年経験者研修」(2003(平成15)年度から開始;出席するだけでよい研修) と同じにはできない。 すなわち,「講習」は,更新の可・不可をアウトプットする研修であるので,研修の成績評価を「教員としての資質・能力の評価」として出すことになる。 したがって,研修の内容も,「教員としての資質・能力を測るもの」として組み立てねばならないものになる。
また,10年ごとの免許更新ということになると,単純計算で「10年経験者研修」の3倍の数の研修生を大学は受け入れることになる。 以上の理由から,教員養成系大学・学部の「教員研修」は,「免許更新講習」で目一杯になる。 ○ 教育的意義・必要性は? 「免許更新講習」は,免許更新の可・不可をアウトプットする講習である。 しかしこれを転ずると,「教員免許は,大学を主たる場とする30時間講習でその更新の可・不可を決定するようなもの」ということになってしまう。 本当はどうなのか?は,敢えて言うまでもない。──本当は,「教員としての資質・能力は,30時間講習で表す/表されるものではない」である。 理屈の立たない制度は,最初から形骸化する。 ○ 需要があるのか? (需要の一般状況) 「免許更新講習」は制度とされた。 したがって,「需要」は問題にならない。 これが問題になる形は,「実施能力・体制づくり」である。 ○ 収支計算は? コスト対パフォーマンス比は? 「免許更新講習」では,現行の「10年経験者研修」のように実施時期をバラバラにとるようなことはできなくなる。実際問題として,講習の時期は一つしかない。 すなわち,公立学校の夏季休暇期間から国民行事の数日を除いた部分である。 大学教員はこの期間をつくるために本業を調整し,講習を行う。 したがって,「免許更新講習」のコストの問題は,ほぼ個人の時間と労働量 (見えないコスト) の問題になる。 一方,このコストに対するパフォーマンスについては,そうとうがっかりしなければなるまい。 実際,「免許更新講習」に対しては,免許更新の可・不可を決めるもののようには,だれも考えていない (これの制度化を進めた行政も含めて)。 「不適格者」は「講習」で判決できるものではないから,「講習」は「不適格者」を出さない。 それは,出席するだけでよい免許更新講習になる。 ──始める前から形骸化している。 ○ どのような教員組織になる? 北海道の本務教員数 (平成16,17年) は,つぎのようになっている (『日本の統計2007』22.教育)):
これを10で割った数の教員が,毎年「免許更新講習」を受ける。
教員養成系大学・学部が,この講習を行う主たる機関ということになっている。 大学はこの講習に対応して教員を組織するが,受講者数,講習時間,そして実施期間 (公立学校の夏季休暇期間) の制約から,教員組織の形・内容はほぼ一意に決まる。 「免許更新」は,行政の「改革」会議で,勢いで出てきたものである。 当初は「5年ごと」という意見もあった。 ところが,実施を考える段になると,「とてもできるものではない」「形だけのものになる」ことがすぐにわかってくる。 そしていまは,中央教育審議会の担当ワーキンググループ (「教員養成部会教員免許更新制等ワーキンググループ」) の中でも,内容的な撤退を始めている。 実際,つぎは同ワーキンググループ 第1回 (平成19年10月3日会議) 配付資料3 『教員免許更新制の運用についての検討経過(案)』の一部であるが,この文章の基調は,「<なんでもあり>にしないと,とても実施できるものではない」である:
同じ基調 (「<なんでもあり>にしないと,とても実施できるものではない」) は, 中央教育審議会 初等中等教育分科会の教員養成部会(第49回,平成19年7月13日)の 『教員免許更新制の運用についての検討資料』にも,見ることができる:
この上に,30時間の講習でどれほどのことができるか?の問題がある。 「教育の最新事情に関する事項」について12時間,「教科指導、生徒指導その他教育内容の充実に関する事項」について18時間としているが,時間割に表してみるとつぎのようになる:
教員養成系以外の大学も多く参加する体制でこの講習を実施するとし,さらに,インターネットでの受講もありとする。 免許更新制度の当初の意図は,「免許更新講習で教員としての資質・能力を評価し,不適格者に対しては免許更新をしない」である。 このためには,試験が伴わねばならない。 そして,「免許更新試験」の意味をもつ試験ならば,それは共通のものでなければならない。 そして,共通の試験を課せるためには,講習も一定でなければならない。 ところが,これはできることでない。 免許更新制度実施のワーキンググループ自身が,これを認めている。 免許更新制度は,始まる前からすっかり破綻しているわけだ。 「免許更新講習」は2009年度から実施となっているが,この先まだどうなるかわからないと考えておいた方がよい。 ○ 組織への影響は? 免許更新講習は,「何でもあり」講習になる。( どのような教員組織になる?) 実際,大学は,「何でもあり」ということで,はじめてこれを引き受けることができる。 (講習内容に責任をもたされるのであれば,引き受けられるものではない。) このとき免許更新講習は,大学にとっては,「めんどうだが,責任のない外的業務 (アルバイト)」というものになる。 このような位相の免許更新講習は,大学の組織の根本に影響するものにはならない。 これの導入で影響されるのは,大学ではなく,国の方である。 すなわち,形だけのものであることをみなが承知の免許更新講習は,各員は<偽>を知っており組織としてはこれを<真>とする「裸の王様」である。「裸の王様」は,組織のモラル・精神文化の低下をもたらす。特に,免許更新講習の場合は,国の教育のモラル・精神文化の低下をもたらす。 |