Up はじめに 作成: 2008-10-19
更新: 2011-10-20


    「2007年問題」というのがある。
    2007年とは,団塊世代がごっそり退職する年を指す。
    会社の歴史とともに生き,会社の各種システムをつくってきた者たちが,会社からいなくなる。 彼らが残したシステムの意味は,彼らにしかわからない。 さあ,会社はどうする?──これが「2007年問題」である。

    引き継ぎが単純でないのは,「仕事がわかる・できる」とはカラダの問題であるからだ。
    カラダのことは,マニュアルを渡すみたいな形では引き継げない。
    カラダはつくるしかない。
    そしてカラダづくりには時間がかかる。

    カラダのことの引き継ぎは,「免許皆伝」の形になる。
    後継者は,協働の中で養成される (OJT)。

    「2007年問題」とは,この後継者養成がなおざりにされてきたという問題である。
    担当者が退職した後には,その者のみがわかり他の者にはわからないシステムが,残される。


    国立大学でのネットワーク管理者の交替の問題は,この「2007年問題」である。

    1990年代前半に,国立大学はインターネットにつながった。
    そして,教員有志がネットワークの管理者に就いた。

    ネットワーク管理業務は,後継者の養成を含まねばならない。
    実際,現担当者はいつまでも担当しているわけではない。
    そして担当者の交替は,事務引き継ぎのようにはできない。
    ネットワーク管理の仕事ができるようになるには,実践の中で,学習と経験を積まねばならない。

    ネットワーク管理業務は,複数体制をとる。
    いくつかの理由で複数体制にするわけだが,この理由の一つに「後継者の養成」がある。 ──「後継者養成」の OJT。

    しかし,教員とネットワーク管理者の両立は,たいへんである。
    後継者養成がうまくいかない,後継者が出て来ない,直接担当する者も減り,遂にはひとり,という流れに自ずとなる。

    そして,後継者不在のまま現担当者がいなくなるという事態を迎える。
    「どうしたらよいか?」となる。


    ネットワーク管理者の交替の問題では,「どうしたらよいか?」の問題以前に,「問題をよくわかっていない」「問題をよくわかっていないことがわかっていない」という問題がある。
    ネットワーク管理業務は,そもそも一般者の関知しないものである。 担当者の交替を事務引き継ぎのイメージで考えたりするのも,ネットワーク管理業務がどんなものかわからないためであり,仕方のないことだ。

    そしてまた,「どんなことが問題なのか?」を一般者に口で言って伝えるのも,簡単ではない。 内容が簡単でないからだ。

    そこで,「どんなことが問題なのか?」を,文章にしてみることにした。


    本論考の結論は,つぎの2点である:

    1. ネットワーク管理者は「成長」によってつくられる。 この「成長」は,時間がかかる。 よって,担当者の交替は,事務引き継ぎの形ではできない。

    2. また,いまあるシステムは,これをつくってきた者でなければ,理解できない。 新しく管理者になって初めてこれに出会う者は,これの解読に入っていくよりは,つくり直す方がはやい。

    この結論を導くにおいては,ネットワーク管理業務の内容,ネットワーク管理者の「成長」について触れることになる。 しかしこの部分は,情報システム用語がいろいろ現れて一般者には読みにくいかも知れない。
    この場合は,後ろの章から前の方に溯って読むという方法も,試されたい。