Up 月面都市」「月の資源開発」に騙される 作成: 2024-02-18
更新: 2024-02-18


       NHK, , 2023-01-18
    あなたも月で暮らす日が? 月面都市の全貌にせまる
    月に再び人類を送り、基地をつくり、資源を探査しようという動きが本格化しています。アメリカの「アルテミス計画」や中国の「嫦娥(じょうが)計画」など、“月開発”における新たな局面を迎えています。
    民間企業もまた、月面でイメージした構想をもとに、さまざまな月面でのプロジェクトや新たな月ビジネスを生み出そうというチャレンジも始まっています。
     ‥‥‥

       NHK, , 2024-01-14
    中国・アメリカ 月への夢
    1960年代から世界の宇宙開発をリードしてきたアメリカ。21世紀に入ってから急激に伸びてきた中国。今、2つの大国が目指しているのは月だ。一体月には何があるのか?
    両国が次に着陸を狙っているのは月の南極。そこには氷が大量に眠っていると考えられている。氷を水に変え飲料水や植物の栽培に活用。さらには水素と酸素に変え、ロケットや機械の燃料に。月面に基地を作り、資源の採掘を目指しているという。
     ‥‥‥


    ロケットは,輸送手段である。
    その積載量を「ペイロード」と謂う。

    現時点でペイロードが最も大きいロケットは NASA の SLSロケットで,いくつかクラスがあるなかで「140トン級」が’最大となっている。
    140トンを運べるというは,すごいものである。

    どのくらいすごいか?
    Webサイト 住まいの参考書 に「床面積16坪の RC (鉄筋コンクリート) 造2階建が 160トン」とあったので,そのうちこれの部材を1回のロケット打ち上げで月に届けられるようになるかも知れない。
    いまは,SLSロケット1機のコストが 2000億円くらいなので,日本の一般会計予算100兆円くらいを全部つぎ込めば,ロケットを 500回打ち上げることができて,月の上に<床面積16坪 RC造2階建>が500件建つわけだ。


    実際は,そんなに甘くない。
    足場やクレーンをはじめ各種建築機器・機材は,分解した形で月に送り,現地で組み立てることになる。
    この用途に,ロケットの台数を割かねばならない。

    大工も送らねばならない。
    その大工は,建築機械の組み立てと,自分の宿舎の建築を同時にしなければならない。
    それができるまでの間は,月着陸船で寝泊まりということになる。
    必要な大工の人数がn人で,月着陸船に収容できる人数がkであれば,大工輸送に n÷ k 機のロケットを割かねばならない。

    建設機器は現地組立なので,これをする機械工場を建てねばならない。
    宇宙服を着て戸外で組立てるなんてことは,できない。
    大工は,組み立て工場の建設から取り掛かることになる。
    その工場建設の資材は,ロケットで運ぶ。

    工場や建設機械の動力は電気ということになるから,発電所を建てねばならない。
    発電所の問題は,バッテリーを使い切りにすれば解決」とはならない。
    バッテリー供給のためのロケットを何回も打ち上げることになる。
    そしてこのときは,大工が最初に取り掛かるのは,バッテリー交換の工場の建設である。

    最初の計算では,100兆円で<床面積16坪 RC造2階建>が 500戸──坪数で 16 × 500 分──建ったが,もうそれの 1/10, 1/100 も建たない感じである。
    計算の簡単のため,「160兆円で1600坪」としよう。
    これで,「1兆円で10坪」が建築コストとなる。


    月は重力があり縦横があるので,月に家を建てるのは,宇宙ステーションを組み建てるみたいにはいかない。
    水平と鉛直を正確に取らないと建物が保たないのは,地球上と同じである。
    そして,月でのユニット工法は,地球でのそれよりも格段に厳格になる。
    空気が漏れ出たり宇宙線が透過したりする箇所が出来てしまってはならない。
    建物が高価になるばかりでなく,工期が長くなる。
    飛ばすロケットの本数は,嵩む一方。

    こうして,「1兆円で10坪」はまだまだ甘くて,NHK が伝える「月面都市」の建築コストは「1兆円で1坪」,さらに「1兆円で0.1 坪」と進んで行く。
    その「月面都市」は,建物全体の床面積が 100m 四方くらいに見えるから,3000坪としよう。
    すると,「1兆円で1坪」だと建築費は 3000兆円, 「1兆円で0.1 坪」だと 30000兆円
    日本の一般会計予算を100兆円くらいとして,30 〜 300年分。
    いかな大国も,「月面都市」のためにこれだけの額の出費をすることはない。


    「資源開発」も同じことである。
    月の氷や鉱石の採掘を話して盛り上がるのは,鉱業というものを知らないからである。
    氷や鉱石を採るとは,ボーリングで鉱脈を調査し,坑道を堀り,氷・鉱石を含む岩盤を削り,それを選鉱場まで運搬し,選鉱し,さらに精錬場に運搬し,‥‥‥ を行うことである。
    機械や施設を稼動する発電所を建てねばばならない。
    資材をつねに供給できる体制をつくらねばならない。
    機械はメインテナンスが必要であるから,これをする工場を建てねばならない。
    選鉱は大量の水を消費するプロセスであるから,大量の水を用意しなければならない。
    これらを,ロケットによる輸送で賄っていくというのである。

    「月面都市」「月の資源開発」を唱える者たちは,いったいどんな計算をしているのか?
    計算はしていないのである。
    「月面都市」「月の資源開発」は,騙しである。


    研究者・研究機関やベンチャーは,金が欲しい。
    金をもらうために,すごく有望なことをやっているとPRする。
    このとき,嘘をつく。

    先ず,メディアを騙す。
    メディアは,この手の話には簡単に騙されて乗ってくる。
    メディアが煽ると,行政の尻に火が付く。
    ひとはメディアや行政を信じているので,結局,皆が騙されることになる。


    ひとはなぜ簡単に騙されるのか?
    「計算してみる」を知らないからである。
    荒唐無稽な嘘は,雑駁な計算でも嘘がわかる。
    しかしひとは,「雑駁な計算であれ,やってみる」ということを知らない。

    これは,「教育が悪い」の話にもっていくこともできよう。
    特に, 「数学教育が悪い」と。
    しかし「教育が悪い」は,「教える者に教える」の堂々巡りになる。
    だから,教育は実現しない。
    教育が実現しないことは,教育が「ひとがひとに教える」である限りどうしようもないことなのである。