ひとは,日本は高潔な国で,中国はあくどい国だと思っている。
ずる賢い中国に馬鹿正直な日本が振り回されていると思っている。
ひとは,中国のレアメタルの輸出規制を「対日制裁」だと思っている。
この輸出規制を不当として日本が欧米と組んで WTO に提訴したことを,犯罪被害者が犯罪者を裁判所に提訴するのと同じだと思っている。
さて,実際のところは?
WTO は,自由貿易を正義にするための機関である。
WTO の悪は,自由貿易の阻害であり,特に貿易の国家管理である。
WTO に加わる国は,自由貿易を正義にする義務がある。
中国は WTO の加入国なので,レアメタル輸出を規制したことは,悪を為したことになる。
よって日本は WTO に提訴することができ,ロジックでは中国はこの提訴に敗けることになる。
ひとは,自由貿易を美しい制度だと思っている。
実際は,自由貿易は,金持ちの国が貧乏な国を食い物にできるようにする制度である。
金持ちは,自分はしたくない厭な生産を,貧乏者に引き受けさせて,製品を得る。
貧乏とは,金が得られるなら何でもするという状態なので,その厭な生産を引き受けるのである。
ひとは知らないが,中国はこれまでこの貧乏であった。
またこの先もしばらくは,この貧乏が続く。
そしてこの貧乏のために,自由貿易制の下では,いまでも列強の食い物にされた清朝中国のようになる。
ひとは知らないが,日本はレアメタル貿易で中国を食い物にしてきた第1位の国である。
レアメタル生産は,自然破壊・環境汚染になる。
よって日本ではできない──反対が起こる。
アメリカはいま,以前閉じたレアメタル生産を再開し始めている。
閉じたのは,反対が起こったからである。
生産再開で反対が起こらないのは,生産場所がひとに「自然破壊・環境汚染を言ってもしょうがないか」と思わせるサバクだからである。
日本は,このようなサバクが存在しないので,アメリカの真似はできない。
日本が狡い国に見えてきただろうか?
しかし狡さは,甲斐性だとも言える。
ひとは,「正義」幻想が壊れたら,「甲斐性」を誇ればよいのである。
自然破壊・環境汚染
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臧 (2014), p.138
中国のレアアースが世界市場を「席巻」した最大の理由は,「環境面にきちんと配慮する必要がなかったので,極めて低コストで生産できた」こととされる。
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同上, pp.133,134
レアアースは‥‥‥1トン当たりの輸出価格は1990年の1.36万ドルに対し,2005年は7322ドルに急落し,土のような価格で取り引きされている。‥‥‥
採掘に伴う環境汚染も深刻で,業務に悪影響が及んでいるとの指摘もある。
年産1000トンのレアアース原料を産出する鉱山では,20万-30万トンの廃土が出る。
採掘にともない,大量の土が失われることで,保水力が低下したところでは,洪水などの被害も増加している。‥‥‥
内モンゴル自治区包頭市は中国国内レアアース生産量の8割を占める。
市内白雲鄂博鉱区も生産地の1つだが2002年に既に「汚染の状況が深刻な村で,人が生存するのには適さない」といわれた地区だ。
汚染が健康に危害を及ぼすと知りながらも,農地,レアアース鉱での仕事,政府からの汚染手当てなどの収入源がなくなれば生活できないと,村民らは移住を拒否している。‥‥‥
[同地区東側地区] は鉄鉱以外に豊富なレアアースがあり,しかもいずれも露天鉱である。
紫外線を浴びたレアアース中には高レベルの放射能を発する希元素が多く含まれ,がんを誘発するおそれがある。
窓ガラスは空気中の化学物質と反応を起こして毎日美しい模様をつくり,地下水には茶褐色の沈殿物が見え臭気もある。
農産物の収穫量は50キロメートル離れた土地の6−7割にとどまり,家畜に奇形などが多発している。‥‥‥
[移住しても] 生活の保障がないこと,政府の移住保証金が少ないこと,2009年の汚染地区手当てもまだ支払われていないことなどを考えると,深刻な問題だ。‥‥‥
レアアースの問題点は,環境破壊などのお金に換算しにくいコストが正しくプレミアムとして上乗せされていない安値で乱開発されているところにあるのだ。
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同上, p.138
掘り出したレアアースを含む土壌は,まず硫酸アンモニウムを使って処理する。
硫酸アンモニウムは農薬として用いられるが,濃度が高い溶液は植物の根を痛める作用がある。
違法に採掘されているレアアースの業者は,高濃度の硫酸アンモニウム溶液を垂れ流している状態だ。
そのため,廃液が流れ込んだダム湖の周囲の木がほとんど枯死してしまった例もある。
今後は,農業への影響も懸念されている。
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同上, p.138
レアアース採掘の環境面へのもうひとつの大きな問題が,「鉱石がトリウムを含んでいる」ことだ。
トリウムは自然の状態で放射性同位元素を含んでいる。‥‥‥
レアアース採掘の際にトリウムを適切に処理しないと,放射性物質による環境汚染が発生することになる。
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乱開発・違法採掘
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同上, p.135
レアアース高騰が注目を集め,広西チワン族自治区など中国南部ではレアアースの違法採掘の再開の動きが広がっている。‥‥‥
広西チワン族自治区ではすでにいくつもの違法レアアース鉱山が誕生している。
違法採掘は熱気を帯びつつあり,乱開発地域もある。
江西省のレアアース精錬企業の生産量は年4万トンに達するが,現地のレアアース鉱山の生産量はわずか8000トンだ。
差し引き3万2000トンがどこかから持ち込まれている計算となる。
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同上, p.136
2010年12月29日,米紙ニューヨーク・タイムズは「中国はレアアース違法採掘の厳しい取り締まりを始めた」と題した記事を掲載した。
中国南部では悪の勢力に支配された一部の鉱山で,大量のレアアースが違法採掘されている。
彼らは暴利をむさぼると同時に環境汚染も引き起こしているが,地元当局は見て見ぬふりを通してきた。
だが,ついに中国政府がこうした違法採掘の厳しい取り締まりに乗り出した。
統計によると,中国南部で違法採掘されたレアアースは世界の供給量の約半分を占めている。
中国はレアアースが豊富な広東省を中心に露天堀鉱山で違法採掘をする犯罪集団の厳しい取り締まりを開始した。
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同上, p.136
工業情報化部原材料工業司によれば,2011年1〜10月に福建省で摘発されたレアアースの無許可採掘は98件で,広東省では無許可探鉱が1件,無許可採掘が192件,越境採掘が8件あった。
一方,江西省贛州市では180回に及ぶ調査で違反行為を288件摘発したほか,内モンゴル自治区では小規模な選鉄工場130カ所を取り締まり,レアアースの窃盗事件6件を捜査した。
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同上, p.137
中国で2010年以降,レアアース割当枠の転売現象がまん延している。
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同上, pp.137,138
中国,江西省贛州一帯で,官・民ともにレアアース(希土類)盗掘に「いそしむ」現象が発生していた。
中国政府がレアアースについて厳格な生産管理を始めたのは2011年後半だった。
その後,「きちんとした企業」の多くはレアアースの採掘を停止したが,個人業者の「盗掘」が盛んになった。
正規の企業について,贛州地域におけるレアアース採掘量を1年当り9000トンと定められた。
超過すれば,翌年の採掘量をその分だけ減らす規則だ。
しかし実際には,「割り当て量を超過した場合,非正規のルートで売りさばく」ことが一般的だ。
さらに,贛州地域ではレアアースの鉱脈が地下の浅い部分に存在し,しかも広く分布しているので小規模な採掘が多い。
取り締まりの目を逃れるため,多くの場合,採掘開始は午後7時で,翌朝午前7時まで作業をする。
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密輸出
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同上, pp.135,136
2009年,正規ルートで輸出されたレアアースは5万トンだ。
一方で密輸出もその40%にあたる2万トン以上に達した。
輸出時に内容物の申請をごまかす,レンガや大理石として輸出するという形式もあるが,このほかにレアアース合金として輸出するケースもある。
レアアース輸出規制は原料にのみ課されるもので,レアアースを利用した製品の輸出には一切の規制がない。
鉄との合金という形式で輸出し,海外で再び分離することによって実質的な原料輸出が行われている。‥‥‥
2006年から2008年に数万トンのレアアースが行方不明になっており,多くが密輸されたとみられる。
2009年,正常な手続きを経て海外へ輸出されたレアアースは5万トンに達したが,密輸で海外に流出したレアアースは2万トンを超え,2008年比で10%以上増加した。‥‥‥
中国のレアアースの一大生産地である内モンゴル自治区包頭市では,中国政府が輸出割当量を低く設定した2006年以来,レアアース鉱石の大規模な窃盗が横行しはじめたほか,レアアース価格の上昇により,小規模な生産工場が乱立している。
中国政府が減らしている輸出割当量は密輸によって補填されており,2008年から2010年10月までに摘発されたレアアース密輸総量は1万6000トンに達している。
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- 引用文献
- 臧 世俊 (2014) :「世界のレアアース生産と管理の再構築」, 千葉商大紀要, 51(2), 2014-03, pp.129-155
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