Up 「エコ」の計算法 作成: 2024-03-06
更新: 2024-03-06


      岡部 (2019), pp.57,58..
     近年、先進国のメーカーは自社の環境保護への取り組みとして、「工場のゴミゼロ化運動」や「C02 削減」や「省エネ」を喧伝しています。
    一例をあげると、アップル社は、「iPhone で使用するアルミニウムは、水力による電力を利用して作るため、製造過程での C02 の発生量が低く抑えられています」と宣伝しています。
    また、日本の一部の企業は、「我が社の工場からは、ゴミを出さずにハイテク・省エネ製品を製造している」と自慢しています。
     先進国の消費者の多くも、こうしたハイテク・省エネ製品を享受しながら、「私は環境に貢献している」と信じています。
    しかし、ここには大きなからくりが隠されています。
     自動車を例に説明しましょう。
    電気自動車一台を製造するには約 50kg の銅が必要です。
    銅鉱石の品位は約 0.5% なので、約10トンの銅鉱石が必要なのは明らかですが、銅の抽出後、残りの約10トンは全てゴミになります。
    そのほとんどが鉱山周辺で処分されています。
    しかもこのゴミには、ヒ素などの有害物質が含まれている場合があります。
    高性能モーターの製造にも、ネオジムなどのレアアースが必要です。
    これを鉱石から抽出する際も、ウラン、トリウムなどの放射性物質を含んだ廃棄物が大量に発生します。
    ガソリン車の場合、排ガス浄化触媒として白金族金属が使われます。
    自動車1台あたりの使用量は数gですが、鉱石の品位はppmオーダー (100万分の1程度) と低いので、自動車1台につき数トンのゴミ (廃棄物) が、白金族金属を使うだけで発生します。
     このように、車1台分の原材料を調達するためだけでも、天然鉱物の採掘と製錬の過程で莫大なエネルギーが消費され、大量の有害物質を含む廃棄物が発生しています。
    ハイテク製品が生産されると同時に、私たちが目にすることがないところで、深刻な環境破壊が起きているのです。
     先進国の企業は、採掘と製錬の過程を全て途上国に任せ、環境負荷を全て途上国に負わせています。
    しかしながら、一般の人がそれを知らないことにつけ込んで、環境破壊の実態には頬かむりして、有害物を取り除いた後の締麗な原材料を輸入しています。
    こうした仕組みで、国内のハイテク工場でゴミの発生を徹底的に減らして「環境に優しい」と謳っているのです。
     近年ではオーストラリアで採掘したレアアースの鉱石を、放射性物質を処理する社会システムと技術を持つマレーシアに持ち込んで精錬し、有害物を除去した後に、高純度になったレアアースだけを日本に輸入する動きがあります。
    この一連の過程は、どれも違法ではありません。
    中国のみに依存していた供給リスクを回避し、さらにマレーシアに高純度化と廃棄物処理を任せることで、オーストラリアや日本の厳しい環境規制を回避する、これは「賢いビジネスモデル」と言えます。

      同上, p.61
    南アフリカには、「ブッシュベルト複合岩体」という幅が数百kmもある巨大な白金鉱脈があります。
    ここでは地下千mまで掘って長い坑道を作り、ダイナマイトを使って採掘しているので、大変な労力です。
    その上、南アの鉱山の鉱石の白金品位 (数ppm) は世界最高ですが、それでも鉱石1トンからパチンコ玉1個分 (数g、2万円相当) しか採れず、残りの約1トンは全てゴミになります。

      同上, pp.62,63
     包頭(パオトウ)市は、中国の内モンゴル自治区にある人口250万人の巨大都市です。
    "Baotoiu Tailing" で画像検索すると、多くのショッキングな映像が出てくることからも明らかなように、包頭市の周辺では金属生産のために深刻な環境破壊が起きています。
     私は早速、現地に足を運びました。
    まず包頭市の中心部から150km ほど北の白雲鄂博(バヤンオポー)という長閑な村にある、世界最大のレアアース鉱山地帯を訪問しまし た。
     中国北部のレアアース鉱山は露天掘の鉱山で、岩盤が固いのでダイナマイトを仕掛けて鉱石を砕いて採掘しています。
    周囲には採掘時に出た廃棄物のボタ山がいくつもあります。
    このボタ山は、ウラン、トリウムなどの放射性物質も含みます。
    さらに、工場で製錬した後の廃水は有害物質を含みますが、これらは近くの巨大な池に排出されています。
    この廃水は有害化学物質や放射性物質が濃縮されて含まれている場合もあるので、将来、問題となるかもしれません。
     レアアース製錬で発生する廃棄物の処分場 (廃鉱滓処分場) が包頭市の近くにもあるので、視察に行きました。
    驚くことに、有害物を含むゴミが、穴にも埋めずに投棄されていました。
    これが、中国が世界のレアアース市場を独占できる理由です。
     日本は廃棄物処理に関する環境規制が厳格なため、放射性廃棄物を含む廃棄物の処分場をつくる場合、とても高いコストがかかります。
    現実的には、これらの破棄物の処分場を日本ではつくれません。
    しかし、中国は環境コストが極めて低いため、レアアースなどの生産に関してはコスト競争に勝利し、世界の生産シェアを独占できたのです。

      同上, p.66
    「環境性能がよい」「省エネだ」という謳い文句に踊らされて次々とハイテク製品を買い替えて、「環境に貢献した」とは絶対に思わないこと


  • 引用文献
    • 岡部徹 (2019) :「レアメタル──資源の現況と今後の活用法」, 學士曾会報 No.934 (2019-I)