Up 「埋蔵量」のことばに騙される 作成: 2024-03-07
更新: 2024-03-07


JOGMEC「鉱物資源マテリアルフロー 2020 6.レアアース (REE)」から引用:
レアアース (REE) の国別生産量と埋蔵量


    ひとは,日本はレアメタルが無いから,レアメタルが有る国から輸入していると思っている。
    そして「国別埋蔵量」のグラフを見て,埋蔵量の多い国を羨ましく思う。
    これは,「埋蔵量」のことばに騙されているのである。

    「埋蔵量」は,先進国が「この国に生産させよう」と白羽の矢を立てた国で,ボーリング調査し,埋蔵量を期待値として表したものである。
    生産量のグラフに登場していないが埋蔵量のグラフに大きく描かれているブラジル,ベトナムは,これから先進国の「餌食」になる国である。

    日本は,レアアースを採掘する積もりはないので,どちらのグラフにも現れることはない。
    なぜ日本はレアアースを採掘する積もりがないのか?


    国別生産量のグラフで,ミャンマーが 10% になっている。
    「合計210千t」なので,ミャンマーの生産量は 21千t。
    その鉱山が優良であるとして,岩石中濃度が 500ppm としよう。
    ppm は 百万分率。
    よって,21千tを生産するために採掘する岩石は,
      21千 ÷ (百万分の 500)
      = ( 21 × 103 ) ÷ ( ( 5 × 102 ) × 10-6)
      = (21 ÷ 5 ) × 103 - ( - 4)
      = 4.2 × 107
      = 4200万t
    そしてこれだけの量が,そのまま廃棄物になり,山と積まれることになる。

    毎年,岩石 4200万t 分のオープンピット (穴) と岩石 4200万t分の山ができる。
    これはそのままサバクになる。
    そして,このサバクは放射性物質曝露の可能性がある。
    鉱毒も考慮せねばならない。
    製錬・精錬に使った大量の水 (汚水) や薬品の廃棄も,問題になる。

    以上の問題をすべて手当てすることは,自然破壊・環境汚染にうるさい日本でできることではない。
    よって,日本でレアアースを採掘しようとする業者は出て来ない。
    レアアースを採掘することはないのだから,日本は埋蔵量の話には端から係わらない。
    かくして,日本が埋蔵量のグラフに現れることは無い。


    いまはレアアースを例にしたが,レアメタル一般も同じ。
    日本は,レアメタル需要大国だが,汚れ仕事は他の国に委ね,きれいな製品を輸入するという方法を採っている。

    なぜこういうやり方ができるのか?
    国の間に貧富の差があるおかげである。
    日本人でいることに感謝すべし。



    備考 : ミャンマーの状況
      JOGMEC「ミャンマー:Kachin州でのレアアース違法採掘及び環境への悪影響」, 2022-04-01
     2022年3月10日付け Radio Free Asiaによると、ミャンマーのKachin州では、中国への輸出を目的としたレアアース鉱物の無秩序な採掘が取り返しのつかないほど環境を破壊しているとして、同州北部の地元監視団が語った。
     中国の国家税務総局によると、ミャンマーは2017年5月から2021年10月の間に1bUS$以上の価値のある140千t 以上のレアアース鉱石を中国に輸出している。
     2021年2月にミャンマー軍が民主的に選出されたミャンマー政府から国の支配権を奪って以来、スマートフォンや電気自動車(EV)などのハイテク製品に使用されるレアアースの中国への輸出が増加していると、地元の活動家グループはRFAに語った。 ‥‥‥
     中国は世界最大のレアアース鉱物の生産国だが、隣国のミャンマーから鉱石を購入することによって、安価な労働力を搾取している。
     Pangwa地区の環境活動家によれば、Kachin州での無秩序な採掘が多くの地元の森林や山を破壊してきたと語った。
    また、主な事業主は中国人とし、ミャンマー国内にいる彼らの関係者が、地元の地主と土地の使用について取り決めをしている模様。
    更に、鉱山労働者は通常、地面を整地し、穴を掘る。そして、その穴に化学処理した液体を流し込み、それが終わると、穴を塞がないから、雨が降ると土砂崩れが起きるとされている。
     ミャンマーの活動家団体Justice MyanmarのYadanar Maung氏は、レアアースの国際的な需要の高まりはミャンマーの違法採掘と密接な関係があり、先進国が EV や風力タービンなどの技術に移行するにつれ、需要が増加していると指摘した。