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『世界大百科事典』, 1988,「採炭」
石炭層や周囲の岩石層中にはメタンガスや二酸化炭素ガス(日本の炭層ではきわめて少なく,ヨーロッパなどの炭層に多い)を含むものがあり,ときに著しい湧出をみる。
とくにメタンは空気に混入すると含有率5〜15%程度で著しい引火爆発性を呈する。
また空気中に細かい石炭の粉が浮遊している場合にも,引火して爆発する性質があり,メタンガス爆発と同様大きな災害をもたらすことがある。
このため,坑内にはメタンガスを希釈するに十分な空気を送るとともに,つねにメタンガスの濃度を測定して安全な範囲内にあるかどうかのチェックがなされる。
また,坑道や払いにおいては,石炭の粉塵が舞わないように,つねに清掃をするとともに,水や岩粉の散布が行われる。
メタンガス濃度や炭塵の浮遊濃度が高くなって爆発の危険性が生じたとしても,火源がなければ爆発することはない。
石炭鉱山で,引火のおそれのあるような火源の使用が禁止されているのはそのためである。
坑内へのタバコやマッチの持込みは許されないし,電気器具の使用も,特殊なくふうによって防爆型となっているものでなくては許可されない。
メタンガスの湧出の機構にはまだ不明の点が多いが,このメタンガスを炭層やその周囲から積極的に除去することも行われる。
採掘に先立って採掘区域に多数のボーリングを行い,強制的にメタンガスを吸引し,坑外へ排出する処置を行うのである。
これをガス抜きというが,吸引されたガスは多くの場合,燃料として利用される。
北海道の南大夕張炭鉱では,得られたガスで9000kW,1260kWの2基のガスタービンを運転して鉱業所内で使用する電力の70%を賄うのみでなく,その廃熱を利用した温水設備も運転している。
坑内の石炭が自然に酸化して熱を発し,条件によっては自然発火することもあり,これもまた恐ろしい災害につながることがある。
自然発火の火がガス爆発の着火源となることもあり,また自然発火個所から発生した一酸化炭素が坑内に広まって,大事故となることもある。
自然発火の防止には,できるだけ石炭の掘残しを減らし,採掘跡への漏風を防ぎ,さらにフライアッシュなどで充てんをして空気の残炭への接触を断つことに努めるとともに,できるだけ早く自然発火の兆候をキャッチして,その場所を密閉したり注水して拡大を抑え,消火するようにする。
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