Up 環境への影響 作成: 2024-01-28
更新: 2024-01-28


      『世界大百科事典』, 1988,「採炭」
    石炭を採掘することはそれ自体が自然を破壊することであるので,採掘の前にあらかじめその影響が考慮されなくてはならない。
    また採掘が終了したのちには,よりよい環境へと整備することが必要である。
    日本の筑豊炭田や常磐炭田などの古い炭鉱地帯では,今なお石炭採掘によって生じたいわゆる鉱害の復旧作業が行われている。
    炭鉱地帯で起きる鉱害のおもなものは,地表沈下とぼた山の崩壊によるもの,それと旧坑からの排出水によるものである。
    地表沈下は,地下の石炭採掘のあとの空洞が,採掘後時間がたつにつれて崩壊し,その影響が地表に現れたものである。
    実際には,岩石が崩壊する際に多少容積が大きくなるし,坑内の採掘跡充てんも行われるので,採掘した空洞の容積そのままが沈下するわけではないが,地表の構造物が傾いたり,壊れたりする。
    とくに,水田の多い日本では,水田の水が流失したり,深田になったりする。
    採掘跡をできるだけ十分に充てんすることが必要であるが,沈下した地表の埋めもどしや,河川のつけ替えなどの工事によって対応することになる。
     石炭の採掘に伴って発生する不要な岩石,すなわち廃石(ぼた。北海道では〈ずり〉と呼ぶ)を谷間などに積み上げたぼた山は,かつては炭鉱地帯の象徴のようなものであったが,今日ではその後始末に苦慮している。
    古くなったぼたが年月とともに風化し,含まれている炭質物質が自然発火したりして崩れやすくなり,大規模な地すべりを起こした例も少なくない。
    ぼたの性質によっては粘土原料や骨材として使うこともできるが,多くは整地して土地を作り,そこを利用する方策が行われている。
     炭鉱の坑内から排出される水には,酸性が強く,鉄分を含むものがある。
    また食塩を含むものもある。
    こうした坑内水をそのまま河川に流出させるわけにはいかないので,このような水を排出する鉱山ではその水を処理する必要がある。
    大量に排出する鉱山では,その処理経費がかさみ,とくに休廃止された炭鉱では,この水の処理を国が実施せざるをえず,また水の流出が続くかぎり,いつまでも処理を継続しなくてはならず,大きな問題となっている。