Up 上皮生態系の絵 作成: 2022-02-24
更新: 2022-02-24


    植物を移植するときは,根回りの土と込みで移植する。
    土を払って移植した植物は,生きられない。
    なぜか?
    植物は,根回りの土と一体だからである。
    植物の成長には,根回りの土との一体化が含まれる。

    その土は,何なのか?
    その土の意味は,共生生物の生態系である。

    特に根の直近の回りは,植物にとって特別な領域である。
    それは共生生物()であり,根と外とのインタフェースになっている。
    ──根は直接外と接しているのではない。

    このインタフェースが壊されると,植物はインタフェースが再生するまで,危機的な自閉状態を持ち堪えねばならない。
    しかしインタフェースは植物の成長とともにつくられてきたものであり,この過程は不可逆である。
    再生は不完全な再生であるしかなく,そしてそれさえも待てなかった植物は,死ぬ。


    さて,ここまで「根」と言ってきたものは,養分吸収を担う部位であるところの細根・根毛である。
    その細根・根毛は,ヒトでは上皮がこれに相当する:
(絵を煩雑にしないために,泌尿器官・生殖器官は省略)

    植物の根について述べてきたことは,そっくりヒトの上皮にあてはまる。
    上皮は直接外と接しているのではない。
    共生生物叢が,外とのインタフェースになっている。

    このインタフェースが壊されると,ヒトはインタフェースが再生するまで,危機的な自閉状態を持ち堪えねばならない。
    この危機的自閉状態がいつものことになっている者は,「慢性的」と称される症候群を体に現すことになる。


    したがって,上皮共生生物叢は,医学──とりわけ免疫学──の基本主題になるものである。
    しかし現実は,まったくそうでない。
    実際,医学は,ヒトに寄って生きる生物を,余計であり害をもたらすばかりのもの,よって無いのがよいもの,として扱ってきた。
    「共生生物叢」の考えは,いまの医学からは出てくるはずのないものなのである。


    免疫疾患は,ヒトの外部とのインタフェースであるところの上皮共生生物叢の「失調」から考え始めねばならないものである。
    しかし上皮共生生物叢の絵をもっていない免疫学は,専ら<体の内側の出来事>として説明をつくろうとする。
    その説明はどのようなものになるか?
    免疫反応を,細胞シグナルのやりとりで進行するプロセスにする。

    細胞シグナルモデルは,「インテリジェントな細胞」モデルである。
    細胞は,状況を知り,的確なタイミングでシグナルを発する。
    しかし細胞は,状況をどうして「知る」ことができ,的確なタイミングがどうして「わかる」のか?

      例えばつぎの場合:
      免疫反応では,「サイトカインと白血球のポジティブフィードバック」が生じる。
      これは,鎮めるしくみが無ければ,上昇スパイラルになる (「サイトカインストーム」)。
      細胞シグナルモデルは,ポジティブフィードバック鎮めるシグナルを発する細胞を措定することになる。
      しかしその細胞は,鎮める頃合いがどうして「わかる」のか?


    「インテリジェントな細胞」モデルになるのは,上皮の適切な絵が持たれていないためである。
    医学が描く上皮の絵は,裸地である。
    しかし,上皮は共生生物がひしめくジャングルである。

    外から侵入してきた病原微生物との攻防の場は,上皮共生生物叢である。
    上皮共生生物叢の揺らぎが免疫反応を始動するシグナルになり,そして免疫反応を鎮めるアクションになる。

    「サイトカインと白血球のポジティブフィードバック」は,力尽くで鎮める他ないものである。
    そしてこの力尽くを行使するものは,上皮共生生物叢の生物たちである。

      サイトカインと白血球の過剰は,細胞間隙から滲み出る体液/血液を養分にしている共生微生物にとって,餌の増加を意味する。
      餌の増加は,その分彼らが増殖できることを意味する。
      サイトカインと白血球の過剰は,増殖した共生生物の餌になって,鎮まる。