Up 細胞・多細胞生物体 作成: 2021-09-27
更新: 2021-09-27


      Dawkins (1989), p.424
     よき自己複製子となるためのますます洗練されたやり方は、徐々に発見されてゆくだろう。
    自己複製子は、自らの固有の性質のおかげだけではなく、世界に対してそれがもたらす帰結のおかげによっても生き残る。
    そういった帰結はきわめて間接的なものでもありうる。
    必要なのはただ、どんなにまわりくどく間接的なものであれ、最終的に自己複製子が自らを複製するさいの成功率にフィードバックし、影響を与えるような帰結であることだけだ。
     ある自己複製子がこの世で成功するかどうかは、それがどういう世界──既存の条件──であるかにかかっている。
    そういった条件のなかでもっとも重要なのは、他の自己複製子とそれがもたらす帰結であろう。
    ‥‥‥ おたがいに利益をあたえあう自己複製子どうしは、おたがいの存在のもとで優位を占めるようになるだろう。
    われわれの地球上の生物進化のどこかの時点で、相互に共存しうる自己複製子どうしのそのような集結が、はっきりと区別されるヴィークル vehicle ──細胞、および後には多細胞生物体──の創造という形をとりはじめた。
    ボトルネックのある生活環をもつヴィークルが繁栄し、よりいっそうはっきり区別されるよりヴィークルらしいものになっていった。

    ここで「ボトルネックのある生活環」の意味は:
      同上, pp.414,415
    一頭のゾウの体にどれだけ多くの細胞があるかにかかわりなく、ゾウはその生涯を単一の細胞、受精卵から始める。
    この受精卵が狭いボトルネック (瓶の首) であり、これが胚発生の過程を通じて、一頭の大人のゾウの何兆、何京ともいう細胞に増えていくのである。
    そして、どれだけ多くの細胞が、どれだけ多くの特殊化した細胞が、強力して、大人のゾウを走らせるという、想像もつかないほどこみいった仕事をおこなおうとも、これらすべての細胞の努力は、たった一種の単一細胞 (精子または卵) の生産という最終目標に収斂する。
    ゾウはそのはじまりにおいて単一細胞、すなわち受精卵であるだけではない。
    その目標あるいは最終産物を意味するその目的も、次の世代の受精卵という単一細胞の生産にある。
    ゾウの幅広く巨大な生活環は、はじまりにもおわりにも狭いボトルネックがあるのだ。
    このボトルネックはすべての多細胞動物とほとんどの植物の生活環の特徴である。



  • 引用文献
    • Dawkins, Richard (1989) : The Selfish Gene (New Edition)
      • Oxford University Press, 1989
      • 日高敏隆・他[訳]『利己的な遺伝子』, 紀伊國屋書店, 1991.