Up <このわたし>の成立条件 作成: 2016-04-09
更新: 2017-10-14


    <このわたし>は,「わたし」のことばによって,対象になった。


    「わたし」のことばは,どうして生じたか。
    集団生活において,個は<わたし>を表現する。
    ヒトの場合,この表現を便利にする道具として「わたし」のことばが発生し,定着した。

      猿の集団の中に,芋を洗って食べる猿が現れた。
      これに倣う猿が,だんだん増えてきた。
      そして「芋を洗って食べる」が,その集団に定着した。
      「わたし」のことばの発生と定着は,これと同じである。


    「わたし」のことばが一旦得られると,<わたし>は表現するものから,対自化するものになる。
    即ち,「わたし」のことばの機能に,認識論が加わる:
      わたしの<わたし>を,自分以外の<わたし>と区別する
      区別は,身近な集団レベル,概念的集団レベル,そして「世界」レベルへと進む。

    「わたし」のことばが,<このわたし>の成立条件である。
    猿の集団にもし「わたし」のことばが現れたら,その集団の猿はそれぞれ<このわたし>──即ち,<このわたし>を対自化する存在──になるというわけである。


    繰り返すが,「わたし」のことばが,《<わたし>を表現する》から《<このわたし>を対自化する》に進ませる。
    実際,<わたし>の表現は,<個体/主体>の発展形として,ヒト以外の種にも認められる:
      ゾウリムシが,自分より小さな微生物を捕食する。
      これは,<個体/主体>の表現である。
      カブトムシがクワガタムシを跳ね上げて木から落とす。
      これもまだ,<個体/主体>の表現である。
      カラスの群れで,強いカラスが弱いカラスの餌を取り上げる。
      これは,<わたし>の表現になっている。
      しかしカラスは,<このわたし>を対自化する存在ではない (とわれわれには想像される)。