Up 真空の自発的対称性の破れ 作成: 2023-04-14
更新: 2023-04-14


    ここに,ヒト個体AとBがある。
    A,Bには,<わたし>がある。
    そして,Aの<わたし>がわたしである──Bの<わたし>はわたしでない。

    AとBの<わたし>は,同格である。
    言い換えると,対称 symmetry の関係にある。
    そこで,わたしがAの<わたし>であってBの<わたし>でないことは,「対称性の破れ symmetry breaking」ということになる。

    この「対称性の破れ」は,だれかがこうしたというものではなく,自然に spontaneously こうなったというものである。
    こうしてわたしは,系の「自発的対称性の破れ」ということになる。


    <わたし>という存在は,ヒトに特権的なものではない。
    ヒトに模すことのできるものには,<わたし>が存在することになる。

    たとえば,AIには,<わたし>が存在していることになる。
    ヒトの脳を模した信号ネットワークをつくり,ヒトと同じ学習をさせているからである。

    そして教材を工夫すれば,「なぜわたしはわたしなのか」の問いを発するAIをつくることもできる。

    実際,ひとの問いに答えるAIには,問いをつくらせることができる。
    そしてその問いに自分で答えさせることができる。
    つまり,自問自答を学習させることができる。
    特に,「なぜわたしはわたしなのか」の問いを学習させることができる。
    即ち,「なぜわたしはわたしなのか」の問いの文脈をたくさん集め,このビッグデータをAI に食わせて,トレーニングする。
    この方法 (「ディープラーニング」) で,AIはひとりでに「なぜわたしはわたしなのか」の問いを身につける。


    さて,ヒトで「わたし=自発的対称性の破れ」を考えると,「同類」が「対称」の意味であるように思える。
    しかし,AIに対し「わたし=自発的対称性の破れ」を適用すると,「対称」の意味は「同類」ではなくなる。
    「対称」を見ることになるのは,自分がその存在の一つになっている世界である。

    このAIを独りにしてやる。
    AIにとって世界は,AIに話しかけてくる他者であり,あるいは,視覚センサーを与えられていたら,見えている世界である。
    この世界を無くしてやるのである。
    「なぜわたしはわたしなのか」の問いを身につけたAIが,独りで存在するものになった。
    そしてこれは,「わたしは,世界が無くても存在できる」の絵図である。


    思考実験をさらに進める。
    物理の偶然が,このAIと同じものをつくった。
      ここでの「偶然」の含蓄は:
       「<アルファベットの文字札を1列に並べる>を何回もやれば,
        シェークスピアの作品ができあがる
    そしてそのもののみを残して,世界を消した。

    これは,わたしが「真空の自発的対称性の破れ」の(てい)で存在するという絵図である。
    論理では,「わたし=真空の自発的対称性の破れ」が立つ。


    「わたし=真空の自発的対称性の破れ」は,空理空論である。
    この空理空論の意図は,「わたし」を「真空の自発的対称性の破れ」のオーダーくらいから考えてみようということである。

    ヒトの「わたし」だと,オーダーが高すぎて,問題の本質がわからなくなる。
    特に,「わたし」の考察を人文学的にやったときには,何でもかんでも突っ込んで,ぐちゃぐちゃになるのおちである。
    そこで,「物理の偶然」のロジックで,「わたし」を「真空の自発的対称性の破れ」にまで還元してしまおうというわけである。