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Montgomery & Bikle (2015), pp.173-175
免疫学者はよく、免疫系には二つの部分──自然部門と獲得部門──があると言う。
それぞれはっきりと違う形ではたらく。
「白血球」という言葉はきっと読者にもおなじみだろうが、これは自然部門と獲得部門のどちらから発生したものであれ、すべての免疫細胞を指す総称だ。
だが個別の型の免疫細胞はいずれかの部門に関わっており、自然免疫細胞、獲得免疫細胞と総称される。
どちらの型の免疫細胞も、相互に接続されたリンパ管と血管の網を通って体じゅうを循環する。
免疫細胞の最初の仕事は、出会った多種多様な分子を調べて正体を突き止めることだ。
その目的はただ一つ、その分子が自己か非自己かをはっきりさせることだ。
この分子は蛮族なのか? それとも自分の微生物共和国の市民なのか?
免疫細胞は身体の全細胞を見張ってもいる。
ときどき、がんのように、細胞が悪くなるからだ。
万事順調に動いているとき、免疫系は自分自身の細胞に由来するものと同時に、病原体と非病原体に関係するさまざまな分子指標を認識・識別する。
自然免疫細胞と獲得免疫細胞には根本的な違いがいくつかある。
免疫系の自然部門を構成する細胞は、一般的な病原体のほとんどを即座に認識することができる。
自然免疫細胞は私たちの最初の防衛線だ。
「自然」は、生まれつきこの細胞が人間の身体の一部であることを表わしている。
これまでのところ免疫学者は、多種多様な微生物を検知できる特殊な受容体を十数個、自然免疫細胞の表層に発見している。
それぞれの型の受容体は、備えつけのバーコードリーダーとよく似ているが、一つ決定的な違いがある。
自然免疫細胞の受容体は幅広い模様──さまざまな病原性および非病原性微生物に関連する分子指標──を読みとるのだ。
受容体のこのようなはたらきによって、自然免疫細胞は、対象の匂いを正確に捉える災害救助犬のような第一級の探知能力を持つことになる。
そしてこれは、ある種の自然免疫細胞が行なう精査を思い起こさせる。
そうした細胞は、認識できる分子指標に出会うと、サンプルを集めて、それを獲得部門からの免疫細胞に示す。
樹状細胞が集めた分子サンプルはきわめて重要で、そのため特に名前がついている──抗原だ。
抗原がなければ免疫の獲得部門は、何をすればいいのか途方に暮れてしまうだろう。
マクロファージと樹状細胞は、食細胞と呼ばれる自然免疫細胞の一種だ。
どちらも一般的な病原体の分子指標を検知するが、理由はそれぞれ異なる。
マクロファージは、捕食動物のように、食べるために狩りをする。
その過程で呑み込んだ不運な微生物を殺す。
樹状細胞はまったく違う。
その目的は病原体を殺すことよりも、侵入者から抗原を手に入れることだ。
樹状細胞もマクロファージも、人間にはないが病原微生物に見られる特定の分子指標を認識することができる。
自然免疫細胞とは対照的に、獲得免疫細胞は自動的に認識して殺す力を持たない。
それらは作用する前に自然免疫細胞からの情報を必要とする。
獲得免疫細胞には主に二種類がある──T細胞とB細胞だ。
T細胞とB細胞の特に注目すべき性質は、いったん自然免疫細胞がそれらに抗原を提示すると、人間の生涯にわたって覚えていられることだ。
同じばい菌をもう一度拾うと、T細胞かB細胞がすぐさま病原体に気づいて症状を大幅にやわらげ、時には生死を分けることさえある。
獲得免疫細胞の不思議な性質は、ワクチンが効く理由だ。
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引用文献
- Montgomery,D.R. & Bikle,A. (2015) : The hidden half of nature ─ The microbial roots of life and health
W. W. Norton Company, 2015.
片岡夏実[訳]『土と内臓──微生物がつくる世界』, 築地書館, 2016.
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