Up 太陽光パネルは土地の沙漠化 作成: 2021-07-21
更新: 2021-07-23


      日本経済新聞, 2021-07-12
    太陽光発電、30年時点で原発より安く 経産省試算
    経済産業省は12日、太陽光発電の2030年時点のコストが1キロワット時あたり8円台前半〜11円台後半と、原子力(11円台後半以上)より安くなるとの試算を示した。 太陽光パネルなどの費用が下がる。 逆転すれば初めてで、エネルギー政策の前提が変わる。 再生可能エネを国民負担も含め高く買い取る優遇策の必要性が薄れ、事業者が自立できる環境が整う。
     ‥‥


    「原子力より安くなる」
    ひとはつぎのように思う:
      「これで原子力発電とおさらばできる!」
    「エネルギー政策の前提が変わる」
    本当か?

    記事の論調は,「太陽光発電はこれまでコストが障壁になっていてソルーションにならなかったが,ここにコストの問題が解決された」である。
    しかし,「1キロワット時の設備費用」は,「コスト」の一部に過ぎない。
    はるかに大きなコストが隠されているのである。


    太陽光パネルの発電量は,1平方メートルあたり年間100kWh ほど。
    一方,日本の年間発電量は,だいたい「年間1兆 kWh」:
エネ百科「電源別発受電電力量の推移」から部分引用


    国は,2030年度までに太陽光発電が全発電量の15% を担うとした。
    「年間1兆 kWh」の15% である。
    果たしてそんなふうになるか?

    1兆 kWh の1%は,100億 kWh。
    100億 kWh を「1平方メートルあたり年間100kWh」の太陽光パネルで得ようとすると,1億平方メートルを敷き詰めねばならない。
    1億平方メートルとは,1万メートル (=10km) 四方,即ち 100 平方km。

    ゆえに,1兆 kWh の15%を担うべき太陽光発電は,パネルを1500平方km 敷き詰めねばならない。
    「1500平方km」はたいした広さではないと思うかも知れぬが,東京都区部の総面積 622平方km の 2.5倍である。

    北海道にはまだ原野があるからこれを開けばよいではないかと思うかも知れぬが,積雪の問題がある。 日照条件もよくない。
    そしてこの問題は,北海道に限らない。

    山の斜面にパネルを設置すればよいと思うかも知れない。
    実際,太陽光発電で起業しようとする者は,山の斜面をパネル設置の場所に定めている。
    しかし,パネルを設置した山斜面は,必ず土砂崩落を起こす。

    したがってパネル設置場所として求める先は,地方の休/廃耕地に限られる。
    即ち,休/廃耕地の地主と契約してパネルを設置することになる。
    しかしその休/廃耕地は,まとまってあるわけではなく,猫の額の広さのものが散在するという(てい)である。


    しかし太陽光発電の本当の問題は,パネルの設置が実現した場合である。
    ひとはパネルにクリーンなイメージをもっているのだろうが,パネルの下は沙漠になる。
    1500平方km の沙漠がつくられるのである。

    太陽光発電は不安定なので事業に乗せにくい。
    そしていまの技術はたちまち旧式化する。
    採算が取れなくて企業が倒産したら,パネルが残骸としてそのまま残ることになる。
    (倒産企業の責任は「有限責任」,そして地主もパネル取り外しに出費しようとは思わない。)

    太陽光発電事業への新規参入者は,手つかずの休/廃耕地をさがし出してパネルを設置する。
    こうして,パネルが土地を侵食していく。

    ひとは「自然保護」「クリーン」を立て,これに即くことを正義にする。
    しかし,その「自然保護」「クリーン」は,幼稚な考えが立てる手前勝手のものである。
    太陽光発電は,規模は違うが,ブラジルの森林伐採と同型である。
    ブラジルの森林伐採を批判する者は,同じ批判を太陽光発電にも向けねばならなくなる。