「風力発電のコスト」は,どう捉えるか?
経産省の発電コスト検証ワーキンググループがこの作業をやっているので,それ (「発電コスト検証に関する取りまとめ (案)」) をここで見ておく。
先ず,「風力発電のコスト」を,
「新たな陸上風力発電設備を更地に建設・運転した際の kWh 当たりのコスト」
と定める。
計算式は,
ここで,
総費用 = 資本費+運転維持費+社会的費用
資本費 = 建設費+固定資産税+設備廃棄費用
運転維持費 = 人件費+修繕費+諸費+業務分担費
社会的費用 = 政策経費 = 立地交付金+ IRR
総発電電力量 = ( 出力 [kW] × 設備利用率 ) × 稼動時間 [h]
註1. |
「IRR」は,つぎの意味で使われている:
「固定価格買取制度 (FIT) の買取価格の優遇された利潤」
翻って,「固定価格買取制度」は
買取価格の優遇された利潤 = IRR
をロジックにしているわけである。
|
2. |
発電量は風の強さに依存する。「設備利用率」は,発電設備の出力 (最大出力) に対する実際の出力 (平均出力) の割合を謂う。
|
「風力発電のコスト」をこのように定めるとき,それはどれほどの額になるのか。
発電コスト検証ワーキンググループは,つぎの作業値を示している (「各電源の諸元一覧」):
モデルプラントの規模 (出力) |
3万 kW |
設備利用率 |
25.4 % |
稼動年数 |
20年ないし 25年 |
資本費 |
建設費 |
34.7 万円/kW |
設備の廃棄費用 |
建設費の5% |
運転維持費 |
人件費 |
1.04 万円/kW/年 |
修繕費 |
諸費 |
業務分担費 |
この作業値を用いて,つぎの場合の収支を計算してみよう:
《 |
ある自治体が,出力3万 kw の陸上風力発電を 2020年に開始し,20年ないし25年稼動して廃棄》
|
3万 kW は,30 MW。
現在は風車1基の出力が大型だと 2.8 MW くらいになっているということなので,風車11基が立つという計算になる。
建設費は,
34.7 (万円/kW) × 30000 (kW) = 1041000 万円 = 104 億円
設備の廃棄費用は,
合わせて,
註: |
これより,風車1基の価格がつぎのように求まる:
109.2 億円 ÷ 11 = 9.9 億円
「1基 約10億円」というわけである。
|
運転維持費は,1年で
1.04 万円/kW × 3万 kW = 3億1200万円
稼動年数をn年とすると,運転維持費は
よって,n年間稼動したときの支出は,
発電設備の平均出力は,
1年間の発電電力量は,
7620 × ( 24 × 365 ) = 66751200 kWh
n年間の発電電力量は,
陸上風力発電の買取価格は,現在 15〜16円/kWh。
これは,段々と減らすことになっている。
いまは,計算の簡単のため,固定してa円/kWh とする。
このとき,1年間の発電電力量の価格は,
a × 66751200 = (0.6675 × a) 億円
n年間の発電電力量の価格は,,
これが,n年間稼動したときの収入である。
収支 (利益) を計算する。
a=15,n=20 の場合だと,
支出 = 109.2 + (3.12 × 20 ) = 171.6 億円
収入 = 0.6675 × 15 × 20 = 200.25 億円
1年当たり利益 = (200.25 − 171.6 ) / 20 = 1.4325 億円
a=15,n=25 の場合だと,
支出 = 109.2 + (3.12 × 25 ) = 187.2 億円
収入 = 0.6675 × 15 × 25 = 250.3 億円
1年当たり利益 = (250.3 − 187.2 ) / 25 = 2.524 億円
註: |
風力発電は,第三セクター方式で運営している。
この利益は,出資者間で (出資比率に応じて) 分けられる。
|
また,支出と収入がイコールになる稼動年数は,,
109.2 + (3.12 × n) = 0.6675 × a × n
より,
(109.2 ÷ (0.6675 × a − 3.12)) 年
a= 15 では
以上の計算を見て,「風力発電はペイする」と思ってはならない。
発電コスト検証ワーキンググループは,風力発電がペイするためにはコストがどんなふうでなければならないかを,割り出しているのである。
よってその値でもって計算すれば,ペイするに決まっている。
現実は,ワーキンググループが望むようになるものではない。
そもそもワーキンググループが示す枠組には, 「リスク」が入っていない。
風向きも変わっていく。
いまは,「クリーン」ではなく「脱炭素」のことばが使われるようになってきているが,それは「クリーン」でないことが,段々とバレているからである。
「脱炭素」のことばは,ひとがまだ「CO2」を絶対悪と思うように洗脳されているので,使えるというわけである。
しかしこの呪文も,だんだんと効果が薄れていく。
そしてそれは,20年もあれば十分である。
|