Up 「法令遵守/説明責任」の適用対象 作成: 2007-09-15
更新: 2007-09-15


    「法令遵守/説明責任」は,どこから出てきたか?
    それは,「組織ぐるみ犯罪」から出てきた。

    1990年代のアメリカで企業犯罪が相次ぐ状況があり,これをどうするかが問題になった。
    企業経営学はこの主題で盛り上がる。 『OECD Principles of Corporate Governance』などが著される。 そして,「法令遵守/説明責任」をビジネスにする企業も現れてくる。

    この問題構造を正しく理解しないと,「法令遵守/説明責任」を組織の<内部統制>に使う間違いをやってしまう。
    特に,「法人化」の国立大学は,これに進む危険性が高い:

      いま,時代の先端は「コーポレート・ガバナンス」だ!
      コーポレートたる国立大学法人は,これを取り入れるぞ!
      "compliance", "accountability", "disclosure", "risk-management" に,網羅的に取り組むのだ!


    「組織ぐるみ犯罪」が起こるには,条件が要る。
    それは,「上意下達」の体制──すなわち,トップダウン体制──であることだ。

     例 : 「ミートホープ食肉偽装」(2007年8月発覚) は,トップダウン体制が可能にした「組織ぐるみ犯罪」。
    いまの日本国とか法人化前の国立大学は,トップダウン体制でないので,「組織ぐるみ犯罪」は不可能。


    組織における「不正/犯罪」は一様ではない。
    このことを理解していないと,「法令遵守/説明責任」の適用を誤ることになる。

    そこで,組織における「不正/犯罪」をカテゴリー分けして考える必要がある。 あわせて,「不正/犯罪」と「失敗」を区別する必要がある。
    このとき,つぎのようなカテゴリーが導かれる:


      犯罪失敗
      組織ぐるみ (上意下達)上下─犯罪上下─失敗
      複数の者が,互いに独立
      あるいは集団心理でする
      (→ 組織風土が問われる)
      風土─犯罪風土─失敗
      グループがするグループ─犯罪グループ─失敗
      個人がする個人─犯罪個人─失敗
       例1. 記録管理の国際標準 ISO15489 は,「失敗」が適用対象である (「犯罪」ではない)。
        2. 新潟大学・岡山大学の「ソフトウェアの大量不正コピー」は,「風土─犯罪」のカテゴリーに入る。


      「グループ─犯罪」「個人─犯罪」は,組織の<不運>の問題である。 この犯罪は,確率的に存在する。
      これには,処分 (あるいはさらに,矯正) で対処する。 この犯罪を起こさないために<内部統制>的な措置を講ずるといったことは,やってはならない。 ──<内部統制>は,本末転倒である。

      「風土─犯罪」には,処罰とモラル涵養 (啓蒙・教育) で対する。
      この場合も,犯罪を起こさないために<内部統制>的な措置を講ずるといったことは,やってはならない。 ──<内部統制>は,本末転倒である。管理の示威は,モラル涵養に逆行する。
      モラル涵養には,時間のかかるものもある。そして,時間がかかるものに対しては,必要な時間をかけるしかない。

      「法令遵守・説明責任」は,「上下─犯罪」が適用対象である。
      また,「法令遵守・説明責任」は「上下─失敗」にも適用される。

      「上下─犯罪」への対策が「法令遵守・説明責任」であるのは,なぜか?
      それは,ひとは「上意」と「一致団結」に抗えないからだ。
      「法令遵守・説明責任」は,組織のトップに照準が向けられている。この点を間違えてはならない。

      重要 : 「法令遵守・説明責任」を<内部統制>の理由・方法として使うのは,論理として間違いである。