Up 2.6.1 変形としての加算  


 二進数の加算式は,一つの文生成システムGの生成するものと見なせた(§1.6.3)。即ち,

(I) G=(NV,TV,P,S)において,
  1. NV:

    開始記号(可算式生成に関する)
    二進数生成に関する
    STR数記号列(空列を含む)生成に関する

  2. TV={1,0,+}

  3. P:
S+N
0
1STR
STRSTR0
STRSTR1
STRε


 さらに,加算を,Gの上の変形と見なすことができる。即ち,加算を伴う二進数加算式の系が,G上の文変形システム(H,S,D)によって実現できる。

(II) Gの拡張でかつGと同値な文生成システムHを,つぎのように定義する:
  1. NVに,
    U:長さ1の数記号列生成に関する
    を追加する。

  2. Pに,
    U→ 0
    U→ 1
    を追加する。

(III) Hの上のシェマシステムS=(H,σ,R) を,つぎのように定義する:
  1. H=(N,T,,) は,

    1. N={, , STR,

    2. T={1,0,+,m,n,s,t}


    3. 0
      1STR
      STRSTR0
      STRSTR1
      STRε
      0
      1
      STR
      STR

  2. シェマ関数σは,
    STRSTR

  3. 代入規則は,原初的代入規則。


(IV) D=(VD,D) は,つぎのように定義する:
  1. D={$,#,1

  2. (註1)
    (a1)/s+t//$s+t$/
    (a2)/s+t+/$s+t$+
    (b1)$sm+tn$$s+t#m+n#$
    (b2)$sm+tn#$s+t#m+n#
    (c1)#0+n##n
    (c2)#1+0##1
    (c3)#1+1#1#0
    (d1)1+1
    (d2)011
    (d3)1110
    (e1)$s+#$s
    (e2)$+s#$s
    (e3)$+#
    (f)$s$s

 ここで,“/”は,式の端を示すメタ記号である(変形補助記号ではない)。

 なお,計算が実際に所期の結果に到達できるためには,この変形規則が与えられているだけでは,十分でない──規則適用順まで一意的に決める必要がある(註2)



(註1) [水谷静夫,“言語と数学”,森北出版,1970,pp.67-72] から記号を変えて,引用。
‘$',‘#',‘1’の意味は,つぎのようになる:
    (1) ‘$’で,一単位の加算を画定する;
    (2) ‘#’で,一単位の加算から同じ桁の数同士の+を分離する;
    (3) ‘1’で,位上がりがあることを指示する.
そこで,
    (a1),(a2) は,一単位の加算を画定する規則;
    (b1),(b2) は,着目する桁の分離の規則;
    (c1)-(c3) は,加算“九九”の表の規則;
    (d1)-(d3) は,位上がりの規則;
    (e1)-(e3) は,一単位の加算の終了条件の規則
    (f) は,計算結果の収束の規則
である。

(註2) [ibid.,pp.70,71]。