命題論理(の上の理論)のメタ定理として,つぎのものは周知である:
(T1) | (“演繹定理")
文φから文ψ(註1)が演繹されるとき,φ⊃ψは定理。
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(T2) | sen⊃sen1 と sen1⊃sen2 から,sen⊃sen2 が導かれる。
| (T3) | sen と sen1 から sen∧sen1 が導かれる。
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また,つぎの定理シェマも周知のものである:
(T4) sen⊃sen
(T5) sen⊃¬¬sen,¬¬sen⊃sen
(T6) ¬sen⊃(sen⊃sen1)
(T7) (sen⊃sen1)⊃(¬sen1⊃¬sen)
(T8) (sen⊃¬sen)⊃¬sen
(T9) (sen⊃sen11)∧(sen1⊃sen11) ⊃((sen∨sen1)⊃sen11)
ここでは,(T4) が既に証明されているときの(T1)(“演繹定理”)の証明と,(T1) から (T8) が既に証明されているときの (T9) の証明を示す(註2)。
“演繹定理”の証明については,それが〈φ⊃ψの証明作成の実効的手続き〉を示すものであるという点を,特に強調しておく。また,(T9)の証明は,変形規則適用の仕方のデモンストレーションを目的とする。
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“演繹定理”の証明
φからのψの演繹が
φ^θ1^・・・・^θn-1^ψ (θi は文)
であるとする。
θ1 は,
(1) 換言規則によってφから導かれる
(2) 公理
のいずれかである。(1) の場合,同じ換言規則によってφ⊃φからφ⊃θ1 が導かれる。φ⊃φが定理だからφ⊃θ1も定理。(2)の場合,θ1 と公理 θ1⊃(φ⊃θ1) (S1) に対する分離規則の適用で,φ⊃θ1 が定理として得られる。
いま,φ⊃θk(k=1,・・・・,i) が定理であるとする。
θi+1 の導出がθi に換言規則を適用することによる導出であるとき,同じ換言規則によってφ⊃θi からφ⊃θi+1 が導出される。仮定によりφ⊃θi は定理だから,φ⊃θi+1 も定理。
θi+1 の導出がθi に対する換言規則の適用によるものでないとき,つぎのいずれかが成り立っている:
- θi+1 は公理;
- 或る k<i+1 に対し,θi+1 はθk と同じ;
- 或る k<i+1 に対しθk がθi⊃θi+1 と同じで,θi とθi⊃θi+1 に対する分離規則の適用で,θi+1 が導出される;
- θi が或る k<i に対する文θk⊃θi+1 であって,θk とθk⊃θi+1 に対する分離規則の適用で,θi+1 が導出される;
そしていずれの場合にも,φ⊃θi+1 は定理になる。
実際,(1) の場合,θi+1 と公理 θi+1⊃(φ⊃θi+1) (S1) に対する分離規則の適用で,定理φ⊃θi+1 を得る。
(2) の場合は,φ⊃θk が仮定から定理であることによる。
(3) の場合,仮定からφ⊃(θi⊃θi+1) は定理。公理(φ⊃(θi⊃θi+1))⊃((φ⊃θi)⊃(φ⊃θi+1)) より,(φ⊃θi)⊃(φ⊃θi+1) は定理。さらにφ⊃θi が仮定より定理であるから,φ⊃θi+1 も定理。
(4) の場合,仮定よりφ⊃(θk⊃θi+1) は定理。よって (3) と同じ考え方でφ⊃θi+1 が定理であることを得る。
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(T9) の証明
φ∨ψ(仮定) | ←─ | sen∨sen1
| | | ↓(C4)
| ¬φ⊃ψ | ←─ | ¬sen⊃sen1
| | | ↓
| ¬φ⊃ψ | ←─ | sen⊃sen1
| & | | &
| ψ⊃θ(仮定) | | sen1⊃sen11
| | | ↓(T2)
| ¬φ⊃θ | ←─ | sen⊃sen11
| ‖
| ¬φ⊃θ | ←─ | sen11
| & | | &
| φ⊃θ(仮定) | | sen⊃sen1
| | | ↓(T7),(MP)
| ¬φ⊃θ | ←─ | sen11
| & | | &
| ¬θ⊃¬φ | | ¬sen1⊃¬sen
| ‖
| ¬φ⊃θ | ←─ | sen1⊃sen11
| & | | &
| ¬θ⊃¬φ | | sen⊃sen1
| | | ↓(T2)
| ¬θ⊃θ | ←─ | sen⊃sen11
| ‖
| ¬θ⊃θ | ←─ | sen1⊃sen
| | | ↓(C1)
| ¬θ⊃¬¬θ | ←─ | sen1⊃¬¬sen
| | | ↓(T8)
| ¬θ⊃¬¬θ | ←─ | sen1
| & | | &
| (¬θ⊃¬¬θ)⊃¬¬θ | | (sen⊃¬sen)⊃¬sen
| ‖
| ¬θ⊃¬¬θ | ←─ | sen
| & | | &
| (¬θ⊃¬¬θ)⊃¬¬θ | | sen⊃sen1
| | | ↓(MP)
| ¬¬θ | ←─ | sen1
| ‖
| ¬¬θ | ←─ | ¬¬sen
| | | ↓(C1)
| θ | ←─ | sen
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(T1) の“演繹定理”により,結局,φ⊃θとψ⊃θから (φ∧ψ)⊃θ が導かれる。
(註1) φ,ψはメタ記号。“演繹定理”の証明の中のφ,ψ,θ,θ1,θn-1,θi,および (T9)の証明の中のφ,ψ,θも同様。
(註2) (T1)から(T8)は,依存関係に従って,例えば (T4), (T5), (T1), (T5), (T6), (T7), (T8), (T3) の順番で証明される。
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