Up 6.8.3 命題論理の定理シェマの証明例  


 命題論理(の上の理論)のメタ定理として,つぎのものは周知である:

    (T1) (“演繹定理")
    文φから文ψ(註1)が演繹されるとき,φ⊃ψは定理。
    (T2) sen⊃sen1 と sen1⊃sen2 から,sen⊃sen2 が導かれる。
    (T3) sen と sen1 から sen∧sen1 が導かれる。
また,つぎの定理シェマも周知のものである:

    (T4) sen⊃sen
    (T5) sen⊃¬¬sen,¬¬sen⊃sen
    (T6) ¬sen⊃(sen⊃sen1)
    (T7) (sen⊃sen1)⊃(¬sen1⊃¬sen)
    (T8) (sen⊃¬sen)⊃¬sen
    (T9) (sen⊃sen11)∧(sen1⊃sen11) ⊃((sen∨sen1)⊃sen11)
ここでは,(T4) が既に証明されているときの(T1)(“演繹定理”)の証明と,(T1) から (T8) が既に証明されているときの (T9) の証明を示す(註2)

 “演繹定理”の証明については,それが〈φ⊃ψの証明作成の実効的手続き〉を示すものであるという点を,特に強調しておく。また,(T9)の証明は,変形規則適用の仕方のデモンストレーションを目的とする。

  1. “演繹定理”の証明

     φからのψの演繹が

    φ^θ1^・・・・^θn-1^ψ  (θi は文)

    であるとする。

     θ1 は,
      (1) 換言規則によってφから導かれる
      (2) 公理

    のいずれかである。(1) の場合,同じ換言規則によってφ⊃φからφ⊃θ1 が導かれる。φ⊃φが定理だからφ⊃θ1も定理。(2)の場合,θ1 と公理 θ1⊃(φ⊃θ1) (S1) に対する分離規則の適用で,φ⊃θ1 が定理として得られる。

     いま,φ⊃θk(k=1,・・・・,i) が定理であるとする。

     θi+1 の導出がθi に換言規則を適用することによる導出であるとき,同じ換言規則によってφ⊃θi からφ⊃θi+1 が導出される。仮定によりφ⊃θi は定理だから,φ⊃θi+1 も定理。

     θi+1 の導出がθi に対する換言規則の適用によるものでないとき,つぎのいずれかが成り立っている:
    1. θi+1 は公理;
    2. 或る k<i+1 に対し,θi+1 はθk と同じ;
    3. 或る k<i+1 に対しθk がθi⊃θi+1 と同じで,θi とθi⊃θi+1 に対する分離規則の適用で,θi+1 が導出される;
    4. θi が或る k<i に対する文θk⊃θi+1 であって,θk とθk⊃θi+1 に対する分離規則の適用で,θi+1 が導出される;

    そしていずれの場合にも,φ⊃θi+1 は定理になる。

     実際,(1) の場合,θi+1 と公理 θi+1⊃(φ⊃θi+1) (S1) に対する分離規則の適用で,定理φ⊃θi+1 を得る。

     (2) の場合は,φ⊃θk が仮定から定理であることによる。

     (3) の場合,仮定からφ⊃(θi⊃θi+1) は定理。公理(φ⊃(θi⊃θi+1))⊃((φ⊃θi)⊃(φ⊃θi+1)) より,(φ⊃θi)⊃(φ⊃θi+1) は定理。さらにφ⊃θi が仮定より定理であるから,φ⊃θi+1 も定理。

     (4) の場合,仮定よりφ⊃(θk⊃θi+1) は定理。よって (3) と同じ考え方でφ⊃θi+1 が定理であることを得る。

  2. (T9) の証明

    φ∨ψ(仮定) ←─ sen∨sen1
      ↓(C4)
    ¬φ⊃ψ ←─ ¬sen⊃sen1
      ↓
    ¬φ⊃ψ ←─ sen⊃sen1
    &&
    ψ⊃θ(仮定)sen1⊃sen11
      ↓(T2)
    ¬φ⊃θ ←─ sen⊃sen11
    ¬φ⊃θ ←─ sen11
    &&
    φ⊃θ(仮定)sen⊃sen1
      ↓(T7),(MP)
    ¬φ⊃θ ←─ sen11
    &&
    ¬θ⊃¬φ¬sen1⊃¬sen
    ¬φ⊃θ ←─ sen1⊃sen11
    &&
    ¬θ⊃¬φsen⊃sen1
      ↓(T2)
    ¬θ⊃θ ←─ sen⊃sen11
    ¬θ⊃θ ←─ sen1⊃sen
      ↓(C1)
    ¬θ⊃¬¬θ ←─ sen1⊃¬¬sen
      ↓(T8)
    ¬θ⊃¬¬θ ←─ sen1
    &&
    (¬θ⊃¬¬θ)⊃¬¬θ(sen⊃¬sen)⊃¬sen
    ¬θ⊃¬¬θ ←─ sen
    &&
    (¬θ⊃¬¬θ)⊃¬¬θsen⊃sen1
      ↓(MP)
    ¬¬θ ←─ sen1
    ¬¬θ ←─ ¬¬sen
      ↓(C1)
    θ ←─ sen

    (T1) の“演繹定理”により,結局,φ⊃θとψ⊃θから (φ∧ψ)⊃θ が導かれる。




(註1) φ,ψはメタ記号。“演繹定理”の証明の中のφ,ψ,θ,θ1,θn-1,θi,および (T9)の証明の中のφ,ψ,θも同様。

(註2) (T1)から(T8)は,依存関係に従って,例えば (T4), (T5), (T1), (T5), (T6), (T7), (T8), (T3) の順番で証明される。