Up 「温度」 作成: 2017-06-23
更新: 2017-06-27


    先ずは「速さ」から。

    日常生活では,「速さ」を実体概念にしている。
    ここで,「速さとは?」と考える。
    このとき,「速さ」は「経過時間とその間の移動距離の対応」のはなしになる。

    「速さ」は,「経過時間とその間の移動距離の対応」の中から任意に時間幅をとり,その間に移動した距離で表される──「1時間で60km」とか。
    時間幅を長くとると「平均の速さ」の趣きになる。
    そこで考えは,「瞬間の速さ」へ進む。──「瞬間Δt とその間の移動距離Δs」。
    (ここで記号「Δ」は,「微小」の気持ちを込めたものである。)
    併せて,「瞬間の速さ」を改めて「速さ」と呼びたくなる。
    実際の移動では,「速さ」は絶えず変化しているからである。

    ここで,経過時間に対する移動距離の対応を,「関数」fで考える。
    こうすると,「瞬間の速さ」が式で表せるようになる:
      時間tが経過した時点での速さは,
        lim Δt → 0 ( f( t +Δt ) ー f( t ) ) /Δt
    またこのとき,経過時間tにそのときの速さを対応させる関数が導かれている:
        f′ : t ├─→ lim Δt → 0 ( f( t +Δt ) ー f( t ) ) /Δt

    これを,一般化する。
    関数fに対し,これから導かれる関数──「導関数」──として,関数f′ を定義する:
        f′ : x├─→ lim Δx → 0 ( f(x+Δx) ー f(x) ) /Δx


    解析学では,伝統的に「y= f(x)」の表現を使ってきている。
    そこで,「lim Δx → 0 ( f(x+Δx) ー f(x) ) /Δx」は,つぎのイメージになる:
        lim Δx → 0 Δy/Δx
    そしてつぎが,f′ の表現になる:
        dy/dx

      この記号法は,曖昧なものである。
      実際,コンピュータプログラムで使ったら,シンタクスエラーになる。
      一方,計算上たいへん便利である。──よって,使われてきているわけである。
      しかし,曖昧な記号法であるから,これをうまく使えるようになるには,形式感覚・パターン感覚を養う必要がある。
      ちなみに,学校数学では,生徒のほとんどはこの記号法で落ちこぼれる。
      論理にこだわるというのも,落ちこぼれのもとである。
      落ちこぼれずに済む者は,形式感覚・パターン感覚でやり過ごせる者──要領のよい者──ということになる。


    さて,こうして,「速さ」は,無味乾燥 (?) な「時間と距離の対応関係」に解消された。
    速さとは?」と考えたら,速さは無くなった。
    《雲をつかまえようとして雲に近づいたら,霧 (水滴の浮遊) の相になり,雲は無くなる》のように,「速さ」もつかまえようとしたら無くなるものである。
    ちなみに,これが,「非実体の存在論」である。



    以上を準備として,ここから「温度」に入る。


    温度とは?」と考え出すと,温度は無くなる。
    この場合は,無味乾燥な「エネルギーとエントロピーの対応」のはなしになる。

    即ち,温度は系の温度であるが,それは系の「エントロピー増大のエネルギーシフト」の<表現>である。
    シフトの「速度」が,われわれに「温度」として感受されるというわけである。 ──「熱い・冷たい」「厚い・寒い」は,あくまでも感覚器の解釈である。


    そこで「温度」の定義であるが,「速さ」の定義──時間tと距離sの対応の関数に対する ds/dt ──のように,エネルギーHとエントロピーSの対応の関数に対する dS/dH で定義する:
      (温度)= d(エントロピー)/d(エネルギー)


    「エントロピー」は,「系」の一般論を立てるときは,基礎概念 (無定義) になる。
    一方,「エントロピー」を基礎概念として立てる者は,「エントロピー」のイメージを持っている。
    「エントロピー」の概念は,熱力学から来ており,統計力学では「系の状態数Wに対する logW」──「状態数の桁数」──として定義される。
    「状態数の桁数」であるから,実質「状態数」であり,「状態量」といった感じである。

    なぜ,状態数そのものではなく,これの桁数をとるのか。
    エネルギーH,状態数Wの系に,これと同じ系を合わせることを考える。
    合わせた系は,エネルギーがH+Hに,状態数がW × Wになる。
    しかし「温度」はこのとき変わらないとされるものであるから, 温度を d(状態数)/d(エネルギー) で定義するのはだめである。
    「状態量」は,加法的でなければならない。

    「状態量」を加法的にするために,状態数Wに対しつぎを「状態量」の定義にする:
      S = logW
    強調するが,直接Wではなく,「Wの桁数」で定義するのである。
    Sに対して温度を dS/dH で定義すれば,同じ系を二つ合わせたときの温度は変わらない。
    このSが,「エントロピー」がである。


    温度 dS/dH ── d( logW )/dH ──の表記としてβを用いる:
      d( logW )/dH = β


    「温度」の定義はこれが理論的なものであるが,一方,生活で既に使われている「温度」──常用温度──がある。
    理論的温度は,この常用温度からずれる。
    そこで,「換算」が問題になる。

    結論として,理論的温度βと常用温度Tの「換算」は,標準単位系 { m, kg, s, K } のもとで,つぎのようになる:
      β= 1/(kB T)
    ここで,kB はつぎの値であり, 「ボルツマン定数」と呼ばれる:
      1.38064852 × 10−23


    「β= 1/(kB T)」は,常用温度Tの理論的再定義である。

    Tは,温度の高い・低いがβの逆になる。
    熱力学は,常用温度を優先する立場から「βは,温度の高い・低いがTの逆になる」のとらえにして,βを「逆温度」と呼ぶ。

    式「β= 1/(kB T)」により,「絶対零度」は理論的に存在しないものとなる。 ──「絶対零度」には理論的温度の「無限大」が対応するからである。

    式「β= 1/(kB T) > 0」から,つぎの命題が導かれる:
    1. エネルギーが増す [減ずる] とき,エントロピーが増す [減ずる]
    2. 温度βが高い [低い] ──温度Tが低い [高い] ──ほど,エネルギーの変動に対するエントロピーの変動が激しい [穏やか]


    現前の物理学は,「エントロピー/状態量」を
      S = logW
    ではなく
      S= kB logW
    で定義している。
    この形で定義した理由は,それまでの成り行きおよび使い勝手の事情ということになる。


    「エネルギー」「エントロピー」──そしてこれから導かれる「温度」──は,「系」の一般理論を構築する概念になる。
    熱力学/統計力学の解釈にとどまるものではない。
    「エネルギー」「エントロピー」──そしてこれから導かれる「温度」──は,系ごとに相応しい読み方を当てることになるものである。


    まとめ
    1. 「系」の一般理論では,「エネルギー」「エントロピー」は基礎概念 (無定義) になる。
      そして,「温度」がつぎのように定義される:
        (温度)= d(エントロピー)/d(エネルギー)
           ( β = dS/dH )

    2. 統計力学では,「状態量」は「状態数」から定義されるものになる:
        S = logW
      このとき,理論的温度βは,常用温度Tとつぎの関係になる:
        β = 1/(kB T)
      溯って,「エントロピー/状態量」がつぎのように定義し直される:
        S = kB logW