Up ラメット ramet,ジェネット genet 作成: 2021-11-23
更新: 2022-02-04


      岩波生物学辞典第4版,「栄養繁殖」
    特に植物において,(細胞生殖に属する胞子生殖や無配生殖を除外した) 無性生殖.栄養繁殖によって作られた同一の遺伝子型をもつ個体をラメット (ramet),ラメット全体の集まりをジェネット (genet) という.
    ラメットどうしが地下茎などを介して生理的にも結び付いている場合は,栄養生殖といわずクローン成長ということもある.
    植物の栄養繁殖の例としては,
    • 枝の先端が特殊な冬芽を作る(タヌキモ・ムジナモ・エビモ・ミヤマチドメ),
    • 腋芽が多肉化して仔株となる(ウワバミソウ・オニユリ),
    • 花が零余子(むかご)化する(ムカゴトラノオ・コモチタカネイチゴツナギ・イヌタムラソウ),
    • 花序中の芽が一部葉芽に変る(コアニチドリ・Arabis gemmifera),
    • 地下器官や葉から苗がでる(キクイモ・オリヅルシダ)
    などがある.


    つぎは,ブルーベリーの「クローン成長」の観察:
2021-11-23
これで1つのジェネット:
ここの地下部を顕すことにする:
ラメットから根が出ている
(ていねいに掘らなかったので根をだいぶ落としてしまった):



    ブルーベリーのクローン成長は, 《新しいラメットを盛んにして,古くなった部分を捨てる》である。
    体の更新であり,体の「新陳代謝」の一形態である。
    そのラメットは,地下茎を切断して単体にしたものを土に挿せば,成長する。
    ただしその成長は,当然だが,ジェネットの一部であるときの成長に比べ,はるかに劣る。


    クローン成長は,樹木においても広葉樹なら一般的である。
    針葉樹では,イチイがクローン成長する:
「祖神の松──樹高 18m, 直径 2.4m / 幹周り 7.5m」(士別市, 2014-08-30)


    大きなものでは,カロリナポプラのクローンコロニー "Pando" が例になる。
    アメリカ ユタ州 Fremont River Ranger の "Pando" は,1個の雄株の地下茎から 40,000 本の幹が発し,サイズが 43.6 ha,重量が 6,000トン。


    ジェネットは,全体で一つの木である。
    木々 (遺伝子型の異なる個体たち) の群集ではない。
    このアタリマエのことをここで改めて取り上げておこうと思ったのは,「クローン成長」を知らなくてそれを
      木々が根をつなぎ合い,栄養交換して助け合っている
       ── 木々はその一本一本が友情でつながっている
    と解釈するイデオロギー ( Wohlleben, Peter (2015)(*) ) に出遭ったからである。
    しかもこれが,荒唐無稽とは受け取られず,つぎのように絶賛されているとのこと:
     「 ‥‥ 2015年に出版した本書はドイツで70万部を超えるベストセラーを記録。34カ国に翻訳された。 アメリカでもニューヨーク・タイムズ紙で絶賛され、ベストセラーとなった。‥‥‥ 」

    日本人は欧米と「協調」イデオロギーに弱いので,学校でこれを教材にするところが出てくるかも知れない。


    (*) Wohlleben, Peter (2015) :
       Das geheime Leben der Bäume : Was sie fühlen, wie sie kommunizieren ─ die Entdeckung einer verborgenen Welt.
    Lutvig Verlag, 2015.
    長谷川圭[訳]『樹木たちの知られざる生活──森林管理官が聴いた森の声』, 早川書房, 2017.