Up 5.6.1 〈内〉の問題領分  


     〈内〉は二種類の問題に登場する。一つは,質量=傾向性の決定に関接する〈内〉の問題,即ち,《質量=傾向性を〈内〉によって説明する》という問題である。そしてもう一つは,場の変容の記述に関接する〈内〉の問題,即ち,《運動に随伴する場の変容のうち己れの変容に属する部分(〈内〉)を記述する》という問題であり,"運動として何が起こっているか"の問いに部分的に答える問題である。われわれは,この二種類の問題を明確に区別しよう。

     第一の問題の場合,われわれの関心は先ず,場における質点の運動にある。即ち,質点がいまこれから場の中でどのような動きをするかということ,これが第一次的な問題である。そして二次的に,質量=傾向性を〈内〉によって説明するという問題が立つ。

     質量=傾向性の決定に関する〈内〉の問題に対しては,わたしはつぎの二つの理由からこれを閑却する。一つは,《人間知能≠AI》(§5.4.4,(註))により,原理的に解答不能であるということ(この意味で擬似問題だということ)。そしてもう一つは,質量は質点の振舞いから伺い知れるということ。

     第二の問題に登場する〈内〉は,運動の内的部面として考えられる〈内〉である。即ち,運動は大局的には場の変容であり,そして運動主体はこの場の部分をなしている。したがって,運動は,"場の部分たる運動主体の〈内〉に制限された場の変容"としての"運動主体の変容"を含意している。〈内〉の変容として捉えられるこの"運動主体の変容"はまた,焦点化する質点の変更でもある。(わたしは§2.2.2 で,この主題を"化学的"と形容した。)

     さて,わたしはこの第二の問題も閑却する。理由は,《善いか悪いかはともかく,われわれはこれまで"現われているもの"(overt)の把捉のみでやってきた》ということ。──但し,《"隠れているもの"(covert)が明らかにされたところで,われわれはその情報を使えない》という含意を強調点として。