ライブ映像のホームページ発信システムの開発と運用
北海道教育大学情報処理センター紀要, no.3(1998,3), pp.65-71.


ライブ映像のホームページ発信システムの開発と運用
Developing a System for Live Broadcast via Webpage

宮下 英明
Hideaki Miyashita


論文概要

    ホームページをユーザインタフェースとしたライブ映像インターネット放送システムを,岩見沢青年会議所地域政策委員会およびNTT岩見沢とタイアップして開発し,運用実験を「岩見沢市百餅まつり・インターネット・ライブ放送」として行った。
    今回の開発プロジェクトでシステムの評価規準として定めたものは,システムの「実用/実際性」である。


    1. はじめに

    今回のプロジェクトでは,異なる次元・レベルの複数のことが,直接あるいは間接のプロダクト・アウトとして,同時にねらわれた。そしてそのうちの最も大きなテーマが,つぎの二つである:
    • ライブ映像発信システムとしてのWWWの可能性を,具体的に示す。
    • 「コミュニティ・ユニバーシティ」の一つの形態として,「情報化」をキー・タームとしたもののモデルを示す。
    このプロジェクトの実践と成果は,そのまま「教育の情報化」に転用できる。


    2. いくつかの通信オプションの試行

    ライブ映像のホームページ発信を,いくつかの方法で実験した。
    通信オプションは,
    1. ライブビデオをサーバに送る方法
    2. 送られてきたライブビデオをインターネット上に発信する方法
    の選択のところで,複数考えられてくる。
    最終的に「岩見沢市百餅まつり・インターネット・ライブ放送」でとった方法は,X節で改めて述べるが,つぎのものである:
    • 現場から放送局へのライブビデオ送信には,TV電話システム Pixend (NTT)を使用する。通信回線は,ISDN 128k。
    • 現場では,ビデオカメラのアウトプットを Pixend にインプットし,放送局側にライブビデオを送信。
    • 放送局では,Pixend でライブビデオを受信し,これを RealVideo(Progressive Network 社)Live Encoder 機にインプットする。Live Encoder 機は RealVideo サーバ機と TCP/IP 接続されており,RealVideo サーバはユーザからのリクエストに応じてライブストリームを送信する。
    • ライブビデオ(RealVideo)のリクエストのユーザ・インタフェースとして,「ホームページ」を用いる。

    プロジェクトでは,このやり方の他に,以下のものを実験した:

    (a) SS-10/5,ビデオカード (SUN Video),WWWサーバ,Webcam for SUN (cgi プログラム)のセットによる,ホームページ上ライブ映像発信
    この方法は,同時アクセス数が1のため,「岩見沢市百餅まつり・インターネット・ライブ放送」には使えないが,アイデア次第で色々な用途が考えられる。手軽であることと,ビデオカードに3つのインプット端子(コンポジット端子2,S端子1)のあることが,魅力である。今回は,デモンストレーションとして3カ月間3種類のライブ映像をホームページ発信した。

    (b) 上の方法とppp接続の組み合わせ
    「岩見沢市百餅まつり・インターネット・ライブ放送」では,現場から放送局へのライブビデオの送信にTV電話を用いたが,ppp接続の方法も試してみた。
    すなわち,ビデオカード,WWWサーバ,Webcam for SUNを装備したラップトップ型 SS-5 を現場に置き,PPP接続(ISDN/非同期)によりこれをインターネット・ホストとする。放送局側にはユーザからのリクエストを受けるWWWサーバ機をおき,ここに届いたリクエストを現場のWWWサーバへのリクエストに振り替える。
    この方法は,つぎの理由から実用性に難がある:
    1. PPP接続の回線に通信の負荷が集中
    2. 現場の機材として,可搬性に難(取材のフットワークを損なう)

    (c) サウンドと映像の切り離し
    RealVideo ライブストリームの受信は,ユーザ端末に相応に負荷を強いる。例えば,モデムなら 28,800bps の速度は必要になる。そのため,サウンドと映像の切り離しも一応試行してみた。それは,サウンドと映像をそれぞれ RealAudio サーバと RealVideo サーバで個々に処理するというものであるが,情報を送信するという第一義的な目的と照らしてやはり不適切な方法であることを確認した。


    3. 通信システムの実際

    通信システムの全体は,以下のとおり:











    4. ライブ放送の実際と反響

    「岩見沢市百餅まつり・インターネット・ライブ放送」はリハーサルを含めて9月14日から16日の3日間行われた。(そのときのホームページは,現在 http://m.iwa.hokkyodai.ac.jp/~iml/project/hyaku/homepage/homepage/ で見ることができる。)ただ放送日時を15日の12字から3時までというようにインターネット上でアナウンスしていたため(Timecast, Internet Watch 等),その時間にアクセスが殺到し,サーバが一時ダウンした。
    反響はいろいろなところからあった。北海道新聞の空知版で取り上げられたり,市の広報誌で報告されたり,各地の「まちづくり」グループからエールが送られたりといった具合である。



    5. 通信オプションとしての「インターネットライブ放送」の意義

    「インターネットライブ放送」のいまの段階での最も大きい意義は,「ライブ情報の世界発信がパーソナルなレベルでできるようになった」ということである。
    学校教育に視点を移せば,これは,ライブ放送ないしビデオ・オン・デマンドがインターネット遠隔教育のオプションの一つに加わったことを意味する。今回の実験で,このことをよりいっそう確信することができた。そこで今後は,どのような情報をストリームとして提供するのがふさわしいかを考えていくことが課題になる。
    画質・音質は,TV電話,TV会議システムの画質・音質におよばないが,これはストリーム情報の価値を低めるものではない。問題はメディアの棲み分けである。


    6. おわりに

    今回の実験の大きな収穫の一つに,大学と地域,および地域行政をめぐる人間ネットワークの形成を推進できたということがある。情報通信技術の教育利用の研究事業は,今後ますます組織横断的な人間ネットワーク形成の様相を濃くしていくことになる。実際,あらゆる領域で「ボーダレス化」が進行しているこの時代にあって,産学,産官学共同の研究の推進がのぞまれているわけである。この意味で,研究組織論といったものも,わたしのこれからの課題としていきたい。
    今回実験したシステムの今後の発展に関しては,ライブ中継局と放送局間の通信に無線を使うシステムを次回実験したいと考えている。