10.1.1 式



 文法は,ある規則に従って生成される記号列を対象(項)と定め,またある規則に従って生成される記号列を対象間関係と定める。前者は対象式,後者は関係式と,それぞれ呼ばれる。そして“式”は,両者を総称する言い回しであると理解される。

 文法はシンタクス(統語論)の領域の主題であり,そしてシンタクスに対してはセマンティクス(意味論)が区別される。“2−3”は,対象式として文法にかなった記号列である一方で,自然数の系においては無意味である(対象を表わさない)。“2+3=6”は,関係式として文法にかなった記号列である一方で,偽である。

 無意味あるいは偽の式を授業からはじめから排除するということがあってはならない。“これらは式ではあるが,無意味/偽である”も,重要な指導内容の一つである(註)。実際,ことばのみによって対象や事態を立てることは“フィクション”としてわれわれにとって日常的である──そもそも意味や真偽を閑却して対象や事態を立て得るということがことばの意義なのである。



(註) 例えば関係式“6÷2=3”に対し,“6÷2”を問題と見なし,“=”を解答への促しと見なし,そして“3”を答えと見なすことに,教師も子どもも慣らされてしまっている。特に,《二つの対象式“6÷2”と“3”の同値を主張する式》という見方をできない(知らない)。