9.3.0 イントロ



 既に対象化している量の系から新しい量の系を導出するアイデアに,“量の積”がある。本節では,このアイデアを確認する(註)

 なお,ここでは数の系として乗法×が可換なものを専ら考える。また,量の系 ((Q,+),(N,+,×),×) をしばしば (Q,N) と略記する。



(註) Cf.小島順,““量の計算”を見直す(4):量のテンソル積",数学セミナー, 1977(11), pp.56-61)。

 但し,“量の積”の概念が導入できることを《“量1×量2”の言い回しの合理化》に用いることは,退ける。“速さ×時間",“長さ×長さ”のような言い回しは,合理化されるべきではない。これらの対象式は“×”を含まない別の対象式と有意味につながることがないのである。

 実際,“速さ×時間=距離",“長さ×長さ=面積”ではない。“=”を定義の意味で使っているなら,この式に意味はない。また,“同型”の意味で使っているなら“速さ×時間=重さ",“長さ×長さ=重さ”でもよいのである。現に,“長さ×長さ=長さ”のモデルをつくることもできる(§9.3.4)。

 “速さ×時間",“長さ×長さ”の言い回しは,“底辺×高さ÷2”のような言い回しと同類のものとして許容できるのみである。──実際,この言い回しにおける“速さ",“時間",“長さ”は,〈測定値の place-holder〉の名(即ち,変数)である。