Up 量と線型空間の関係
 (量・数 ←→ ベクトル・スカラー/行列 )
 


    自然数 → 整数 → 有理数 → 実数 → 複素数 → 四元数 の流れでは,実数のところから,実線型空間を量にしていきます:
    実数に対する量:1次元実線型空間 (「直線」)
    複素数に対する量:2次元実線型空間 (「平面」)
    四元数に対する量:4次元実線型空間 (「空間」をこの中に埋め込む)
    ここで「実線型空間を量にする」とは,実線型空間を量の構造で見ていくということです

    1次元実線型空間は,構造においても,実数に対する量と同じものになります。
    すなわち,1次元実線型空間と実数に対する量は,同じものです。

    しかし,2次元以上では,線型空間と量は,構造において異なるものです。 (最も特徴的な違いは,量は1次元であるということ。)
    すなわち,線型空間と量は違うものです。

    特に,量は線型空間の低次元版ではありません。
    ──逆の言い方をすれば,線型空間は量の次元拡張ではありません。

    以下,1次元では同じものになった線型空間と量が,2次元以上になるとどのような違いを示すことになるのかを,見ていくことにします。

    1次元実線型空間では,量であるところのベクトルは,直線上の移動/シフトになっています:


    そして,実線型空間として1次元であることが,同時に「量測定」の意味になっています:


    この表現の中に現れている実数の身分は,この表現を実線型空間が1次元であることの表現と見るときは「スカラー」であり,「量測定」の表現と見るときは「数」です。 1次元でベクトルを量にするとき,「数」と「スカラー」は同じものになります。

    1次元が2次元になると,「直線上の移動/シフト」は「平面上の移動/シフト」になります。 そして,線型空間の要素としてのベクトルの表現が,つぎのようになります:


    この表現の中に現れている実数の身分は,「スカラー」です。 「量」に対する「数」は,この表現の中に存在していません。(実際,このとき「数」になるのは,複素数です。) 2次元でベクトルを量にするとき,「数」と「スカラー」が別物になります。

    直線上の移動/シフトは,単位の何倍という形で記述できました。これに対し平面上の移動/シフトの場合,「数」ではなく「スカラー」で表現を行おうとすると,単位は成立しません。 単位の役割をさせるものとして,向きの異なる2つのベクトルの組 (u1, u2) を用いることになります。
    実際,上図のように,どの移動/シフトも
u1 ×n1u2 ×n2   (n1, n2:実数)
    の形に記述できるようになります。
    なお,このように用いられるベクトルの組のことを,「基底」と呼んでいます。

    3次元は,ベクトルが「空間の中の移動/シフト」になります。
    これを表現するには,向きの異なる3つのベクトルの組が必要です。 すなわち,向きの異なる3つのベクトルで基底をつくることになります。

     註 : 直線を1次元,平面を2次元,空間を3次元とそれぞれ呼ぶときの次元の数は,基底をつくるのに要するベクトルの個数を指しています。

    量を単位の何倍で表すことには,ベクトルを基底の行列倍で表すことが対応します。 量では数が単位に対する倍作用素であるのに対し,線型空間では行列が基底に対する倍作用素になるわけです。
    こうして,2次元以上では,「スカラー」と「行列」の二本立てで「数」の機能を賄っていくふうになります。