Up 「有理数」の解釈  


    ここで述べる内容は,数学の「集合・構造・空間」および「埋め込み (embedding)」の論法に慣れている読者が対象になる。  


    数学では,集合に構造を導入したものを,空間と呼ぶ。
    空間に対しては,「部分空間」の概念が導入される。
    「部分」の意味は,「集合の部分であって,空間の構造に関してそれ自体閉じている」である。  

    例えば,環Aに対して「Aの部分環」が考えられる。
    これの意味は,「Aの部分集合であって,Aの環構造を定義している二つの算法──加法と乗法──に関して閉じているもの」である。  


    分数全体の集合は,乗法と加法の二つの算法で定義される構造をもつ空間になる。
    小数全体の集合も,乗法と加法の二つの算法で定義される構造をもつ空間になる。  

    いま,「小数倍を分数倍に解釈」をやるときの小数と分数の対応で以て,小数の集合を分数の集合に埋め込む。  


    この集合の埋め込みは,小数の構造を合わせた埋め込みになっている。 ──即ち,埋め込みの写像をfとするとき,小数m,nに対し,つぎが成り立つ:
f(m + n) = f(m) + f(n)
f(m × n) = f(m) × f(n)
 



    こうして,小数は,空間としての分数 (「有理数」) の部分空間と見ることができる。


    要点
    小数を分数 (「有理数」) と見なせるのは,
    1. 「小数倍を分数倍に解釈」のやり方で,小数に分数を対応させることができる。
    2. 分数は有理数。
    に加えて,つぎが成り立っているからである:
    1. 小数と分数の対応は,《2つの小数の和・積に,対応先の2つの分数の和・積が対応する》ようになっている。