- ビギナーが「関数」の導入教材に「入出力マシン (ブラックボックス)」を選ぶと,だいたいが,つぎの区分のうちの「II: 具体的ー荒唐無稽」をやってしまうことになります:
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理屈が立つ |
理屈が立たない (荒唐無稽) |
具体的 |
I |
II |
抽象的 |
III |
IV |
例: |
「入れた物が2つになって出てくる」
「入れた物が色を変えて出てくる」
「りんごを入れるとみかんが出てくる」
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- 関数の「入出力マシン」モデルは,観念的なものです。──実際,以下のものをひとしく「入出力」でとらえるわけですから:
- 条件(if-then)
- 原因-結果
- 運動・変動(経過時間と変位)
- 入力-出力
ところがビギナーの場合,「入出力マシン」モデルを示したとたん,それを「II: 具体的ー荒唐無稽」タイプのマシンにしてしまいます。
- 「I. 具体的─理屈が立つ」入出力マシンをビジュアルにつくるのは,実はひじょうに困難です。(ビギナーのビギナーたる所以は,これを「困難」と思わないことです。)
実際,そのままで関数の例になるような入出力マシンは,日常にはありません!( 「関数」の場所)
よって,入出力マシンをビジュアルなイメージでつくる場合,よほど注意深く,そして方便に巧みでないと,ただの荒唐無稽になってしまいます。
- というわけで,教員養成コースの数学教育の授業で,関数をわかりやすく伝えようとして「入出力マシン」のイメージを指導に使うのは,むしろ考えものです。──関数を誤って理解させてしまう危険性が大です。
- 荒唐無稽でも「関数」の理屈が立てばよいのですが,以下の条件と折り合いをつけるのはなかなか困難です (あるいは,「以下の条件と折り合いをつけて,しかもつまらない関数にはしない」というのは困難です):
条件1: 何が「入力」になるかを明示する。
条件2: 各入力に対する出力が何であるかを明示する
この場合,ビギナーはたいてい,「対象とカテゴリーの混同」というミスをおかします。
例えば,ビギナーは「りんごが入力」と言います。しかしこれでは,対象を示したことにはなりません。
また,「りんごを入れたらみかんが出てくる」では,関数にはなりません。──これを入れたらこれが出る,これを入れたらこれが出る,‥‥ を示さないうちは,関数の話にはなりません。
「りんごを入れたらみかんが出てくる」のモデルを強行するとしたら,どうやると,「これを入れたらこれが出る,これを入れたらこれが出る,‥‥」が言えるようになるでしょう?
つぎのようなやり方に落ち着くしかありません (つまらない関数にしかなりません):
ここに互いに区別できる3つのりんごと,互いに区別できる2つのみかんがある。
それぞれ「りんご1」「りんご2」「りんご3」「みかんA」「みかんB」と呼ぶことにする。
このとき,
りんご1 を入れると,決まって,みかんA が出てくる。
りんご2 を入れると,決まって,みかんB が出てくる。
りんご3 を入れると,決まって,みかんB が出てくる。
- 「入れた物が2つになって出てくる」は,さらに悩ましい^^; この場合は,入力に使う物の個数を例えば3に限定するというやり方も効きません。
ここに互いに区別できる3つの物 A, B, C がある。
Aを入れると,決まって,Aが2つが出てくる。
Bを入れると,決まって,Bが2つが出てくる。
Cを入れると,決まって,Cが2つが出てくる。
しかし,数学では「Aが2つ」はあり得ません。2つの物は別の対象なのです!
ここでも,ビギナーは「対象とカテゴリーの混同」というミスをおかしているわけです。
この場合,きちんと「対象」にするとしたら,つぎのような具合になります:
ここに入力となるりんごとみかんとなしがある。それぞれ「りんご1」「みかん1」「なし1」と呼ぶ。
りんご1 を入れると,決まって,りんご1とりんご2 が出てくる。
みかん1 を入れると,決まって,みかん2 とみかん3 が出てくる。
なし1 を入れると,決まって,なし1となし2 が出てくる。
念のため──つぎはありません (2つの物は別の対象!):
りんご1 を入れると,決まって,りんご1が2つが出てくる。
- しかし,いままで述べてきたことをここでひっくり返すみたいになりますが,<存在>をクリアなものにすることはできません。
例えば,「りんご1」「みかん1」「なし1」‥‥ って,何でしょう?
何を指して「りんご1」「みかん1」「なし1」‥‥ と呼んでいるのか?
これをウジウジ考え出すと,「存在論/形而上学」と呼ばれる泥沼に入っていきます。
実際,関数における<存在>の記述では,わたしたちは意識的・無意識的に,「荒唐無稽を減じつつ,どこかで判断停止する」ということをやっています。
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