Up 準備 :「数・量」の数学  


    「数は量の抽象」は没理論である。
    この没理論を見て取れるためには,「数・量」の数学の知識が必要になる。
    「数・量」の数学は,「数は量の比」の数学である。

    そこで,「数は量の抽象」の論を見る前に,「数は量の比」の数学の押さえておくことにする。 (「数・量」の数学的定義 )

    1. 数学では,数も量も形式である (形式として定義される)。
      そして形式ということでは,以下に示すように,数が量より先にくる

    2. 数 (一つの系) の形式は,要素の集合N,加法+,乗法× で構成される:
          (N, +, ×)

        例: 自然数 (, +, ×), 有理数 (, +, ×), 複素数 (, +, ×)

    3. 量 (一つの系) は,数を作用素とする加法群のように定義される。
      これの形式を示すのに,「普遍対象 (universal object)」の考え方を使う。

      すなわち,(N, +, ×) の要素を使ってつくられるつぎの対象を,「数 (N, +, ×) を作用域とする量」の普遍対象にする:
          ( (N, +), ×, (N, +, ×) )

        読み方:
        「(N, +, ×) の要素 が,(N, +) の要素に,倍作用 (真ん中の × )する」

      量 (系) は,「数 (N, +, ×) を作用域とする量」として,( (N, +), ×, (N, +, ×) ) と同型な対象 (object) として定義される:
          ( (, ), × , (N, +, ×) )

        読み方:
        「(N, +, ×) の要素 が,(, ) の要素に,倍作用 ( × ) する」

        例:( (りんごの個数, ), × , (, +, ×) )
        ( (重さ, ), × , (, +, ×) ) (分数値に限定の場合)
        ( (直線上の移動, ), × , (, +, ×) )
        ( (平面上の移動, ), × , (, +, ×) )

      (, ) の要素が,量(要素) ──「量(系)」に対する「量(要素)」──である。
      量(要素) に関する算法としては,量(要素) 同士の和と,量(要素) に対する数(要素) の倍だけが定義される。

        量(系) と量(要素) の区別の意味:
        個々の重さが量(要素)で,個々の重さを要素とする集合 (「重さ」のカテゴリーに対応) が量(系)。

      特に,量の構造は数の構造より導かれる。
      例えば,量の位相構造は数の位相構造から導かれる。 ──自然数,有理数,実数を作用素とする量の位相は,それぞれ離散,稠密,完備である。


    そして,以上のこととあわせて,つぎのことを確認しておく:

    1. 量は自体的に存在していない。
      人が,物(たとえば,棒)に,量(たとえば,長さ)を解釈する。
      量のその解釈がどのようになるかは,人と物 (すなわち状況) に依存する。