Up 関連 :「かけ算の順序」 作成: 2012-02-22
更新: 2012-03-03


    かけ算の立式については,「かけ算に順序はある」と「かけ算に順序はない」の間の論争が現前している。 (「かけ算の順序」の数学とイデオロギーとモンスター ──「かけ算の順序」論争 解説)
    そしてこの論争での「かけ算に順序はある」の立場は,「かたまり × いくつ」「1あたり量 × いくつ分」の順序がかけ算の順序であると主張するものである。
    以下,この主張が保てるものかどうかを見ていく。


    (1) 「かたまり × いくつの場合

    数の「×」の意味を「かたまり × いくつ」にする立場は,同時に「この順序がかけ算の順序である」と主張する立場である。 そして「かたまり × いくつ」の場合,「かけ算の順序」は確かにこの順序の他ではなくなる。 実際,「かたまり × いくつ」の図式では,「かたまり」の絵の前に「いくつ」の絵をおくことはできない。



    そしてこの順序は,数学の「かけ算の順序」と一致する。
    しかし,この符合は,単に,数学の「かけ算の順序」を見て「かたまり × いくつ」を発案したためである。
    実際,「かたまり × いくつ」は,自身の系の中で「かけ算の順序」を明証的にすることはできない。 存在論として自分を立てているからである。


    (2) 「1あたり量 × いくつ分の場合

    「1あたり量 × いくつ分」は,つぎのような形を指す:
      「 2/5 g/cm3 × 4/3 cm3
    そしてこれに対し,「2/5 × 4/3」が立式される。

    この立式を数学として行うと,つぎのようになる:
「 2/5 g/cm3 × 4/3 cm3
= ( g/cm3 × 2/5 ) ( cm3 × 4/3 )
= ( g/cm3 ( cm3 × 4/3 ) ) × 2/5
= ( g/cm3 ( cm3 ) × 4/3 ) × 2/5
= g × ( 4/3 × 2/5 )
=「( 4/3 × 2/5 ) g」

    また,この手順を「数直線」に表すことにすると,つぎのようになる:

    ここで,「1あたり量 × いくつ分」での 2/5 と 4/3 の順序が,数の積の式では逆になった。

    「1あたり量 × いくつ分」の順序と積の式の2数の順序を同じにしたいならば,g/cm3 × 2/5 が比例関係であることを先に適用して,つぎの流れに替えることになる:
「 2/5 g/cm3 × 4/3 cm3
= ( g/cm3 × 2/5 ) ( cm3 × 4/3 )
= ( g/cm3 × 2/5 ) ( cm3× 4/3
= ( g/cm3 ( cm3 ) × 2/5 ) × 4/3
= g × ( 2/5 × 4/3 )
=「( 2/5 × 4/3 ) g」
    数直線」だと,つぎの手順の作図になる:

    このように,「×」の意味を「1あたり量 × いくつ分」にするとき,数の積の式での2数の順序が定まらない。
    特に,「1あたり量 × いくつ分」を立場にすることは,「かけ算に順序はない」を引き受けることである。
    「1あたり量 × いくつ分」を立場とする者が「かけ算の順序」論争の場に進出するときは,「かけ算に順序はない」と言わねばならないのである。