Up かけ算の意味は,1あたり量 × いくつ分」の場合
── 「<比例関係>と<量>の複比例」の数学
作成: 2012-02-22
更新: 2012-03-01


    数の積の意味が生徒に伝えられる形は,一つが「かたまり × いくつ」であり,そしてもう一つが,つぎの「数直線」が説明図式として用いられるところの,「1あたり量 × いくつ分」である:
    以下,この「1あたり量 × いくつ分」の数学を示す。

    体積(系),重さ(系) を,( (Q体積, ), ×, (N, +, ×) ),( (Q重さ, ), × とする。
    体積と重さの間の比例関係全体は,量になる:
( (Hom( Q体積, Q重さ), ), ×, (N, +, ×) )   
    ここで,
    1. f, g ∈ Hom( Q体積, Q重さ) に対し,
        (f g)( x ) = f( x ) g( x )  ( x ∈ Q体積 )
    2. f ∈ Hom( Q体積, Q重さ),n∈ N に対し,
        (f × n)( x ) = f( x ) × n  ( x ∈ Q体積 )


    1あたり量 × いくつ分」は,「×」の意味を,Hom( Q体積, Q重さ) × Q体積 の Q重さ への写像:
      ( f, x ) ├─→ f( x )  ( f ∈ Hom( Q体積, Q重さ),x ∈ Q体積 )
    に定めていることになる。

    なぜ,ここで「×」の登場になるのか?
    この写像 (Fとする) は,複比例関数になっている。
    そして,Q体積 と Q重さ の単位を定め,この単位に準じて Hom( Q体積, Q重さ) の単位を定めるとき,Fから導かれる数値の関数:
      ( 体積単位あたり重さの数値,体積の数値 ) ├─→ 重さの数値
    は,2数にその積が対応するものになる:

      例えば,体積の単位に cm3,重さの単位に gをとるときは,g/cm3 を Hom( Q体積, Q重さ) の単位にする。 このとき,
        F( g/cm3 × 2, cm3 × 3 )
        = ( g/cm3 × 2 ) ( cm3 × 3 )
        = (g/cm3) (cm3 ) × ( 2 × 3 )
        = g × ( 2 × 3 )

    この結果を見て,「×」を使っているわけである。

     註 : この「×」を「積」と読ませる数学を求めるならば,「テンソル積」がこれにあたる。 ( 「2個/皿 × 3皿 = 6個」の数学:テンソル積)


    このように,「1あたり量 × いくつ分」における数の積の立式は,これを数学にすると,「F(f, x) に対する数の積の立式」ということになる。
    もっとも,「数の積は量の積の抽象」の立場では,数の積の立式は直接的であり,式の導出の明証は無用のものになる。
    実際,「抽象」を謂う所以である。
    「抽象」は,「存在の事実の捉えとこれの記述」であるから,明証するというものではないわけである。




    註 : 「1あたり量 × いくつ分」は,「数の積は量の積の抽象」の立場である。 そして,「数の積は量の積の抽象」の立場は,<数は量の抽象>の立場である。
    <数は量の抽象>は,「量の積」として「1あたり量 × いくつ分」の概念を立てる。 そして,この「量の積」の意味を,「内包量と外延量の積」とする。
    「内包量」が「1あたり量」と同じものであることを,「速度」を例に,見ておこう。 「速度」は,<数は量の抽象>の立場において,内包量となる。 そして,「速度」の図式は,つぎのように「1あたり量」の図式に他ならない:
       
    ところで,「内包量」は,「足せない」で特徴づけられている。 特に,内包量である速度は,足せない。
    一方,「内包量」は,比例関係に他ならない。 したがって,これは量になる。 足したり倍したりできる。 実際,われわれは,速度を日常的に足したり倍したりしている。
    このように,「内包量」は,<数は量の抽象>が自家撞着を曝す主題になっている。 ただし,この自家撞着を見て取るには,数学が必要になる。