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「数学ができる」社会成員の育成
大多数の人は,自分は数学とは無縁であると感じ,実際数学を使わずに生活しています。しかし,わたしたしの生活基盤を形成する生産活動や流通活動等において数学は不可欠の道具です。わたしたちが日常あたりまえにものを食べたり,電気を使ったり,乗物を使って移動したりできているかげには,数学を駆使した生産活動その他があるわけです。
今日「理数離れ」,「数学離れ」が問題になっていますが,この傾向と排反して,時代はいっそう数学を道具とした活動を必要としています。
数学を使う仕事に就ける社会成員,すなわち「数学のできる社会成員」の育成は,数学教育の社会的責務の一つです。そしてこのときの数学教育は,
- 学習者の「数学理解」をゴールとしつつ,
- 同時に学習者個々の数学的適性・能力の評価を目的とする
数学教育です。
- 個の数学的能力の開発/強化
「数学のできる社会成員」の育成を目的とする数学教育では,
- 各指導内容について,学習者がそれを確実に理解するよう導き,
- これら個々の指導を通じて学習者の数学的能力を開発・強化していく
ことが内容となります。「形式陶冶・実質陶冶」(「数学で教える・数学を教える」) の枠組みで言えば,「実質陶冶」(「数学を教える」) になります。
結果を出すのはたいへんですが,指導として行うべき内容は具体的で,明確です。
- 個の数学的適性・能力の評価
個々の数学的適性・能力を明らかにすることは,公教育としての数学教育の重要な責務の一つです。これは「数学を道具とする仕事につける人材」であるかどうかの「レッテル貼り」であり,「選別」です。
「レッテル貼り・選別」は,公教育の重要な責務です。「レッテル貼り・選別」は教育の否定的な面のように言われることが多いのですが,公教育に限って言えばこれは誤りです。
どの社会的活動においても「人」がもっとも重要な要素であり,そして必要な人材が求められます。そして,適性や能力は,教育というプロセスを経ずには測れません。公教育は,
- 社会成員全体の知的水準を引き上げることと,
- 個人の適性・能力の評価
の両方を,役割として担っています。
個人の適性・能力を明らかにすることに「差別」を見て公教育のこの機能を否定しようとしても,この機能を果たそうとするものが別の形で,しかもおそらく歪んだ形で,現れるだけです。公教育は,「レッテル貼り・選別」の機能を肯定的にそして積極的に引き受けねばなりません。これは公教育に課せられた責務の一つです。
公教育としての数学教育は,個々の数学的適性・能力をできるだけ正確に示すことを目指さねばなりません。言い換えると,良質な「試験紙」であることを目指さねばなりません。そして,指導が良質であるということが,「試験紙」として良質ということです。
指導の目指すべきところは一つです。「良質な指導」がそれです。