Up 「微分・積分」の意味  


    「微分・積分」を勉強してきたひとに,「微分・積分って何?」と質問する。 決まって,答えられない。
    答えられないのは,「微分・積分って何?」という問いの形を,ずっと持たないで過ごしてきたからだ。

    微分・積分って何?」の問いを持たずに微分・積分の授業を受けているというのは,改めて考えてみると不思議なことだが,ひとの教授/学習は,むしろこれが自然である。
    ひとにとって,what・why?の問いは,自然ではない。
    ひとは,how の教授/学習で過ごす。

    というわけで,「微分・積分」という学習主題の意味を,ここで改めて示すとしよう。


    学校数学の「微分・積分」の学習ゴールは,つぎのものである:
      与えられた関数fから,これの導関数と呼ばれる関数f' を導く。
    与えられた関数fから,これの原始関数と呼ばれる関数Fを導く。

    この数学でどのような応用を想定しているかというと,つぎのものである:
      ここに,「移動」の運動がある。 この運動の記述として,つぎの2通りを考える:
     A. 経過時間とこの間の移動距離の対応を記述する。
     B. 経過時間とそのときの速度の対応を記述する。
    (自動車には,走行距離計と速度計の二つのメータがついているが,これを用いれば上の2通りの記述ができることになる。)
    このとき,Aの記述からBの記述を導くことができる。また,Bの記述からAの記述を導くことができる。
    Aの記述からBの記述を導くのが,導関数を導くことにあたる。
    Bの記述からAの記述を導くのが,原始関数を導くことにあたる。

    与えられた関数fからこれの導関数f' を導くのは,一つの計算式よって行う。
    この操作を「微分」と呼ぶ。
    移動の記述において「微分」に対応する概念は,「瞬間速度を求める」である。

    与えられた関数fからこれの原始関数Fを導くのは,一つの計算式よって行う。
    この操作を「積分」と呼ぶ。
    移動の記述において「積分」に対応する概念は,「瞬間瞬間の移動距離を累積する」である。

    「微分・積分」の「分」の意味は,「運動を切り分ける」である。
    運動を切り分けることで,話がどんなふうに進展するのか?
    切り分けた運動を,等速運動に近似する。
    こうして,運動全体を「等速運動が合わさったもの」に近似する。
    等速運動であれば,小学算数の内容──簡単な内容──になる。
    運動の記述が,小学算数でできることを合わせる形で,できるようになる。
    めでたし,めでたし。