Up ユークリッド幾何学の公理  


    ユークリッド幾何学では,幾何学を厳格な理論として構築することが行われました。 「厳格」の意味は,「推論を規則に従わせる」です(註1)
    この規則のうちには,「既に結論されていることでなければ,推論で根拠として使ってはならない」があります。
    このとき,「根拠の溯行」ということが起こります。
    根拠の溯行は,どこかで止まらねばなりません。 ユークリッド幾何学は,これ以上は溯行できない<成り立つこと>として,つぎの5つを定めています (「公準」と呼ばれます):

     P1. 2点を直線でつなげる
     P2. 有限直線を好きなだけ延長できる
     P3. 任意の点と距離に対し,その点を中心としその距離を半径とする円をかける。
     P4. 直角はすべて等しい。
     註 : 「直角」は,この公準に先立って定義されている (定義10)。
     P5. 一つの直線が二本の直線と交わり,同じ側の内角の和が二直角より小さいならば,この二直線を延長すると,二直角より小さな角のある側で交わる。


    公準の第5番目の P5 (「第5公準」) は,いわくつきのものです。
    これは,他の4つと比べて,内容が際立って複雑です。そこで,他の4つから導かれるのでないかと思れてきます。実際そう思った人たちが,第5公準を導き出すことに挑戦してきました。

    しかし,この挑戦はもともと勝ち目のないものでした。 すなわち,第5公準は,やはり他の4つの公準から独立したものでした。
    それは,「非ユークリッド幾何学を構築できる」という形で示されました。 ( 非ユークリッド幾何学)


    第5公準は,初心者にはわかりにくい表現になっています。 つぎは第5公準と置き換えてもよいものになりますが(註2),これらの方がわかりやすいでしょう:

      A:直線外の1点を通りこの直線と交わらない直線は,
        1つあって,ただ1つに限る

      B:三角形の内角の和は2直角


      C:つぎの2直線は,交わらない。





    註1 : 『原論』が形式言語的に厳格かというと,そうではありません。公準に先立つ定義も,イメージで補うことで成り立っています。
    註2 : A, B, C がそれぞれ P5 の置き換えになることの説明は,類書にあたってください。