換算のしくみを数学に表現しようとすると,「双対」および「テンソル」のはなしになる。
──実際,「双対」および「テンソル」は,「換算」の話であると言い切ってよい。
換算を,「いまもっている測定表現に,変更したい測定方法を掛ける」と見る。
この「掛ける」の記号が,\( \otimes \) である:
(いまもっている測定表現) \( \otimes \) (変更したい測定方法)
例えば,つぎのようになる:
(50 cm) \( \otimes \) (m で測る)
長さに向きがついているとして,「長さの全体」を実ベクトル空間Vと考える。
長さの単位を一つ決めることは,Vの基底を一つ決めることに対応する。
長さ \( \bf x \) を単位 \( \bf e \) で測って測定値 x を出すことは,Vの汎函数 ──即ち,\( V^* \) の要素──である:
\[ {\bf x} = x\, {\bf e} \,\longmapsto x \ \ \ \ \ ( {\bf x} \in V) \]
この汎函数を \( {\bf e}^* \) と表すとしよう。
このとき, 「(50 cm) \( \otimes \) (m で測る)」はつぎの表現になる:
\[ (50\, {\bf cm}) \otimes {\bf m}^* = 50\,( {\bf cm} \otimes {\bf m}^* ) \]
単位の変更は,基底変換である。
基底変換 : \( \bf cm \rightarrow \bf m \) の変換行列は,1行1列の行列 ( 100 ) であり,即ち 100 である:
\[ 100\,{\bf cm} = \bf m \]
一般に,ベクトル空間Vの基底変換の行列に応じる \( V^* \) の基底変換の行列は, \( A^{-1} \) である。
そこで,変換 : \( {\bf cm}^* \rightarrow {\bf m}^* \) の変換行列は,\( 100^{-1} \),即ち 0.01 である:
\[ 0.01 {\bf cm}^* = {\bf m}^* \]
\( 100\,{\bf cm} = \bf m \) と \( 0.01 {\bf cm}^* = {\bf m}^* \) から,\( 50\, {\bf cm} \otimes {\bf m}^* \) はつぎの2通りに変形できる:
\[
50\, (0.01 {\bf m}) \otimes {\bf m} ^* = (50 \times 0.01)\, {\bf m} \otimes {\bf m}^* = 0.5\, {\bf m} \otimes {\bf m}^* \\
50\, {\bf cm} \otimes (0.01 {\bf cm}^*) = (50 \times 0.01)\, {\bf cm} \otimes {\bf cm}^* = 0.5\, {\bf cm} \otimes {\bf cm}^*
\]
「\( {\bf m} \otimes {\bf m}^* \)」「\( {\bf cm} \otimes {\bf cm}^* \)」は,「mを mで測る」「cmを cmで測る」であるから,ともに1である。
よって,
\[
0.5\, {\bf m} \otimes {\bf m}^* = 0.5\\
0.5\, {\bf cm} \otimes {\bf cm}^* = 0.5
\]
テンソルの計算としては,\( {\bf m} \otimes {\bf m}^* ,\, {\bf cm} \otimes {\bf cm}^* \) の「縮約」になる。
まとめて,
(50 cm) \( \otimes \) (m で測る) = \( (50\, {\bf cm}) \otimes {\bf m}^* = 0.5 \)
この結果は,われわれの知る「換算」と符合するものである。
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