Up 「転置 t」の意味 作成: 2018-02-09
更新: 2018-12-10


    行列の「転置 t」とは,何のことか。
    行列のテクストは,「転置 t」の意味を述べることがない。
    学習者も,対角線で折り返す操作の意味は?の問いをもつことがない。
    困ったことに,数学の教授/学習はいつもこんなふうである。

    この「転置」は,数計算でやる「分子側の数を分母側に,分母側の数を分子側に」の「転置」のことである。

    「分子側の数を分母側に,分母側の数を分子側に」は,つぎの考えでやっている:
      \[ x = ( x^{-1} )^{-1} \\ \begin{align*} \quad \Longrightarrow &\frac{ x A}{B} = \frac{ (x^{-1} )^{-1} A}{B} = \frac{A}{ x^{-1} B} \\ &\frac{ A}{x B} = \frac{A}{ (x^{-1} )^{-1} B} = \frac{x^{-1} A}{ B} \end{align*} \]

    このときの計算は,量計算であって,数は量の単位の係数である。
    量は線型空間が1次元の場合であって,量の単位は線型空間の基底である。
    この「量計算」を一般次元ないし一般座標に拡張しようとするとき,「\( x = ( x^{-1} )^{-1} \) 」は使えない。

    そこでどうするか。

    上の計算での「\( x = ( x^{-1} )^{-1} \) 」は,実は「\( x = {}^t ({}^t x)\) 」であり,ここで「\({}^t\)」は,「分子側の数を分母側に,分母側の数を分子側に」移す作用素である,と見なすのである:
      \[ x = {}^t ({}^t x) \\ \begin{align*} \quad \Longrightarrow &\frac{ x\, A}{B} = \frac{ {}^t ({}^t x)\, A}{B} = \frac{A}{ {}^t x\, B} \\ &\frac{ A}{x\, B} = \frac{A}{ {}^t ({}^t x)\, B} = \frac{{}^t x \, A}{ B} \end{align*} \]
    そして,この「\({}^t\)」を一般次元・一般座標に拡張することを考えるというわけである。