Up 添字の転置 作成: 2018-02-09
更新: 2018-12-10


    座標ベクトルの成分の添字,線型写像表現行列の成分の添字は,「共変・反変」を構造を表現する上下ルールに順って付けることにした。
    このルールは,数計算における数の場所移動ルールである。
    したがって,「転置」──分子側の数を分母側に,分母側の数を分子側に」──も,このルールの含蓄するところである。
    即ち,以下のように:


    (1) 座標ベクトル成分の添字の場合
    一行行列,一列行列は,座標ベクトルである。
    行ベクトルの成分の添字は下付けとなり,列ベクトルでは上付けとなる:
      \[ ( x_1,\, \cdots, \, x_n ) \\ \\ \quad \left( \begin{array}{c} x^1 \\ \vdots \\ x^n \\ \end{array} \right) \]
    「転置 t」は,添字の上下をひっくり返す操作である:
      \[ {}^t( x_1,\, \cdots, \, x_n ) = \left( \begin{array}{c} x^1 \\ \vdots \\ x^n \\ \end{array} \right) \\ \begin{array}{c} t \\ \\ \\ \end{array} \left( \begin{array}{c} x^1 \\ \vdots \\ x^n \\ \end{array} \right) = ( x_1,\, \cdots, \, x_n ) \]

     註: 「転置=添字の上下をひっくり返す」は,正規直交基底の場合に単純に成り立つことである。 ここでは要約的に「転置=添字の上下をひっくり返す」の言い回しを用いる。──「転置」の内容の本質を損なう言い回しではない。


    (2) 線型写像表現行列成分の添字の場合
    行列
      \[ \left( \begin{array}{ccc} a^1_1 & \cdots & a^n_1 \\ & \cdots & \\ a^1_n & \cdots & a^n_n \\ \end{array} \right) \]
    の \( a_i^j \) は,つぎの作用である:
    • \(x^i\) との積では,これに倍して,\(x'^j\) にする
      倍されるのは分子の側の数であり,結果は分子に留まる
    • \(x_j\) との積では,これに倍して,\(x'_i\) にする
      倍されるのは分母の側の数であり,結果は分母に留まる

    この内容を「転置」すると,
    • \(x_i\) との積では,これに倍して,\(x'_j\) にする
      倍されるのは分母の側の数であり,結果は分母に留まる
    • \(x^j\) との積では,これに倍して,\(x'^i\) にする
      倍されるのは分子の側の数であり,結果は分子に留まる
    となり,これは (もとの \( a_i^j \) の \(i,\,j\) を上下転置した) \( a_j^i \) である。
    行列は,結果的に,もとの行列の \( a_i^j \) を \( a_j^i \) に置き換えたものになる:
      \[ \left( \begin{array}{ccc} a^1_1 & \cdots & a^1_n \\ & \cdots & \\ a^n_1 & \cdots & a^n_n \\ \end{array} \right) \]
    形としては,「もとの行列を対角線で折り返す」になっている。

      「もとの行列を対角線で折り返す」の形は,「添字の上下を転置」の結果(・・)である。
      しかし「行列」のテクストは,「もとの行列を対角線で折り返す」を「転置」の意味にしてしまう。 ──こうして「転置」の意味をわからなくしてしまう。



    「速さ=距離/時間」を例にして,
      (1) 転置:分子側の数を分母側へ,分母側の数を分子側へ
      (2) 転置:添字の上下をひっくり返す
    の内容を示す:

    (1) 転置:分子側の数を分母側へ,分母側の数を分子側へ
    時間,距離,速さの単位に,秒, cm, cm/秒 をとる。
    「時間 \(x\) 秒,距離 \(x'\) cm のときの速さ \(a\) cm/秒」 は,つぎのように表される:
      \[ a = \frac{x'}{x} \qquad \left( 速さ=\frac{距離}{時間} \right) \]
    \[ a = \frac{x'}{x} \\ \quad \Longrightarrow a\times x = \frac{x'}{x} \times x \] \[ \begin{align*} (右辺) &= \frac{x'}{{}^t ({}^t x)} \times x \\ &= ( x' \times {}^t x ) \times x \\ &= x' \times ( {}^t x \times x ) \\ &= x' \times \frac{x}{x} \\ &= x' \end{align*} \]   よって, \[ a\times x = x' \qquad \left( 速さ \times 時間 = 距離 \right) \]
    \[ a\times x = x' \\ \quad \Longrightarrow {}^t a\times (a\times x) = {}^t a\times x' \] \[ \begin{align*} (左辺) &= ( {}^t a\times a) \times x \\&= \frac{a}{a} \times x \\&= x \end{align*} \] \[ (右辺) = \frac{x'}{a} \]   よって, \[ x = \frac{x'}{a} \qquad \left( 時間 = \frac{距離}{速さ} \right) \]
    (2) 転置:添字の上下をひっくり返す
    「時間 \(x\) 秒,距離 \(x'\) cm のときの速さ \(a\) cm/秒」 は,つぎのように表される:
      \[ a_{秒}^{cm} = x_{秒} \times x'^{cm} \]
    \[ a_{秒}^{cm} = x_{秒} \times x'^{cm} \\ \quad \Longrightarrow a_{秒}^{cm} \times x^{秒} = (x_{秒} \times x'^{cm}) \times x^{秒} \] \[ \begin{align*} (右辺) &= ( x'^{cm} \times ( x_{秒} \times x^{秒} ) \\ &= x'^{cm} \end{align*} \]   よって, \[ a_{秒}^{cm} \times x^{秒} = x'^{cm} \]
    \[ a_{秒}^{cm} \times x^{秒} = x'^{cm} \\ \quad \Longrightarrow a^{秒}_{cm} \times (a_{秒}^{cm} \times x^{秒}) = a^{秒}_{cm} \times x'^{cm} \] \[ \begin{align*} (左辺) &= ( a^{秒}_{cm} \times a_{秒}^{cm} ) \times x^{秒} \\&= x^{秒} \end{align*} \]   よって, \[ x^{秒} = a^{秒}_{cm} \times x'^{cm} \]
    但しこの例は,量──1次元ベクトル空間──の計算式の場合であり,「\({}^t\)」のしくみがよく見えないものになっている。
    あくまでも,一般次元の場合を類推する手助けとして示したということである。