Up テンソル「タテ\(\otimes\)ヨコ\(\otimes\)タカサ \(\cong\) 体積」 作成: 2018-01-23
更新: 2018-02-20


    「タテ×ヨコ×タカサ=体積」のテンソルは,「タテ×ヨコ=面積」のテンソルをやった後は,特段取り上げずともよいものである。
    ただ,項が一つ増えることで記述がどのように増えるかは,見ておく方がよい。
    ということで,「タテ×ヨコ×タカサ=体積」も,一応きちんと押さえておく。


    「タテ×ヨコ×タカサ=体積」に対しては,つぎの構成要素を見る:
    1. 実ベクトル空間 \( U_1,\, U_2,\, U_3\)
        \( U_1\) : タテ(長さ) 全体
        \( U_2\) : ヨコ(長さ) 全体
        \( U_3\) : タカサ(長さ) 全体
        \( W \) : 体積全体
    2. 複線型写像 \( \phi : U_1 \times U_2 \times U_3 \to W\)
        \( \phi \) : (タテ \({\bf x_1}\), ヨコ \({\bf x_2}\), タカサ \({\bf x_3}) \)
        \( \qquad \longmapsto\) タテ \({\bf x}_1\), ヨコ \({\bf x}_2 \) タカサ \({\bf x}_3\) の直方体の体積

    ここで,量をベクトル──大きさと向き──に見る方法は,量に「増」をつける:
      例えば,「2 cm」→「2 cm増」

    「複線型写像 \( \phi : U_1 \times U_2 \times U_3 \to W\) 」の意味は:
    • \(U_2\) の元 \({\bf u}_2\) と \(U_3\) の元 \({\bf u}_3\) を固定したときの写像
        \( {\bf x}_1 \longmapsto \phi({\bf x}_1,\,{\bf u}_2,\,{\bf u}_3) \quad ({\bf x}_3 \in U_1) \)
      は,\(U_3\) から \(W\) への線型写像
    • \(U_3\) の元 \({\bf u}_3\) と \(U_1\) の元 \({\bf u}_1\) を固定したときの写像
        \( {\bf x}_2 \longmapsto \phi({\bf u}_1,\,{\bf x}_2,\,{\bf u}_3) \quad ({\bf x}_1 \in U_2) \)
      は,\(U_3\) から \(W\) への線型写像
    • \(U_1\) の元 \({\bf u}_1\) と \(U_2\) の元 \({\bf u}_2\) を固定したときの写像
        \( {\bf x}_3 \longmapsto \phi({\bf u}_1,\,{\bf u}_2,\,{\bf x}_3) \quad ({\bf x}_3 \in U_3) \)
      は,\(U_3\) から \(W\) への線型写像

    実際,小学数学では,つぎのことが指導される:
      「タテの長さが2倍,3倍,‥‥ になれば,
        直方体の体積も2倍,3倍,‥‥ になる。
       ヨコ,タカサについても同様。」


    つぎは,集合 \(U_1 \times U_2 \times U_3\) 上の同値関係になる:
      \[ ({\bf x}_1,\,{\bf x}_2,\,{\bf x}_3) \sim ({\bf x’}_1,\,{\bf x'}_2,\,{\bf x'}_3) \\ \qquad \ :\ \phi({\bf x}_1,\,{\bf x}_2,\,{\bf x}_3) = \phi({\bf x}_1,\,{\bf x}_2,\,{\bf x}_3) \]
    この同値関係による \(U_1 \times U_2 \times U_3\) の商集合──同値類の集合──を「\(U_1 \bigotimes U_2 \bigotimes U_3\)」で表す。
    また,\( ({\bf x}_1,\,{\bf x}_2,\,{\bf x}_3)\) が代表元になる同値類を,「\({\bf x}_1 \otimes {\bf x}_2 \otimes {\bf x}_3\)」で表す。

    「\(U_1 \otimes U_2 \otimes U_3\)」は,即ち「タテ\(\bigotimes\)ヨコ\(\bigotimes\)タカサ」である。
    ここでは,直方体の体積が同じになる (タテ, ヨコ, タカサ) を類別したわけである。


    \(U_1 \otimes U_2 \otimes U_3\) は,つぎの算法を以て,実ベクトル空間になる:
      \[ \begin{align*} \xi\,({\bf x}_1 \otimes {\bf x}_2 \otimes {\bf x}_3) &= (\xi\,{\bf x}_1) \otimes {\bf x}_2 \otimes {\bf x}_3 \\&= {\bf x}_1 \otimes (\xi\,{\bf x}_2) \otimes {\bf x}_3 \\&= {\bf x}_1 \otimes {\bf x}_2 \otimes ( \xi\,{\bf x}_3) \quad ( \xi \in \mathbb{R} ) \end{align*} \]
      \[ {\bf x}_1 \otimes {\bf x}_2 \otimes {\bf x}_3 + {\bf x'}_1 \otimes {\bf x}_2 \otimes {\bf x}_3 = ({\bf x}_1 + {\bf x'}_1 ) \otimes {\bf x}_2 \otimes {\bf x}_3 \\ {\bf x}_1 \otimes {\bf x}_2 \otimes {\bf x}_3 + {\bf x}_1 \otimes {\bf x'}_2 \otimes {\bf x}_3 = {\bf x}_1 \otimes ({\bf x}_2 + {\bf x'}_2) \otimes {\bf x}_3 \\ {\bf x}_1 \otimes {\bf x}_2 \otimes {\bf x}_3 + {\bf x}_1 \otimes {\bf x}_2 \otimes {\bf x'}_3 = {\bf x}_1 ) \otimes {\bf x}_2 \otimes ({\bf x}_3 + {\bf x'}_3) \]

    また,写像:
      \[ U_1 \times U_2 \times U_3 \longrightarrow U_1 \otimes U_2 \otimes U_3 \\ \ ({\bf x}_1,\,{\bf x}_2,\,{\bf x}_3) \longmapsto {\bf x}_1 \otimes {\bf x}_2 \otimes {\bf x}_3 \]
    は,員にそれが属するクラスを対応させる写像──「標準写像 canonical map」──である。


    そして,つぎの図式を可換にする写像 \(\bar{\phi} \) は,線型空間 \(U_1 \bigotimes U_2 \bigotimes U_3\) と \( W\) の同型写像になる:
      要素の対応で書くと:


    この同型が,「タテ × ヨコ × タカサ = 体積」と読まれる。
    同型「タテ\(\bigotimes\)ヨコ\(\bigotimes\)タカサ \( \approx \) 体積」の読みが「タテ × ヨコ × タカサ = 体積」というわけである。